世に知られるキング牧師は、後に「ダディ・キング」として知られるマーチン・ルーサー・キングの息子です。もう、この時点で、僕はキングに少しだけ共感してしまうのですが、彼は悩みながらも父と同様に牧師としての人生を歩み始めます。そして、本人が望む、望まないに関わらず、キングにしか出来ないような課題、為すべきことが何であるかを知るのでした。
リンカーンが奴隷解放を宣言したにもかかわらず、アメリカの深南部では根強く人種差別が残っており、「ホワイト」と「カラード」と書かれ生活空間すら共有させない風習が残っていたのでした。食堂、トイレ、手を洗う場所、バスの座席に至るまで、まるで白人と黒人はすみ分けをされていたのでした。人間として、同じ権利を持つことが出来なかった、させなかったのでした。当時の黒人には選挙権すら与えられていませんでした。これが、わずか50年前のことです。
モントゴメリー事件という、疲れた初老の女性が、バスの中で腰掛けた白人シートに、運転手が猛烈に恫喝したことから、キング牧師は黒人の権利を獲得する、平等の権利を主張する運動のリーダーへとなっていきます。
彼や、彼とは別の団体も、このアメリカに巣くう病巣を変えるため、「人種隔離廃絶運動」「選挙人登録運動」を推進していきます。しかし、同時に、それを進めるための方法にも、様々な意見が出て、黒人の運動は激流のような流れを、どのように、どの方向に、上手に導いていけるかが、最も大きな問題となったのです。一触即発、過激な方法で「公民権」を獲得しようとする勢力、政府の転覆や社会不安をもっともっと煽ろうとする勢力が次々に現れてゆきました。
その中で、このキング牧師は、黒人や白人勢力の双方からいらだちや罵声を浴びながらも、「非暴力」「無抵抗」という主張を展開し、暴発寸前の黒人感情を、歴史に残る形、永遠に尊敬される運動へと導いていったのです。これは、キング牧師がインドで植民地支配のイギリス帝国と交渉していたマハトマ・ガンジーを敬愛していたことから考え出され、提唱・実行されたのです。
ところが、このキング牧師もまた、マハトマ・ガンジーやJFKと同じように、1968年4月4日、午後6時前後、黄昏のこのモーテルのバルコニーで、右のあごと首を狙撃され、命を落とすことになったのです。
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