2017年12月1日金曜日

『宇宙の力を信じましょう』 妙深寺報 平成29年12月号 巻頭言











目に映る世界は限られています。


僕たちが知っている世界も限られたものでしょう。知らなければ知らないで困ることもなく生きてゆけるかもしれません。


ネパールの奥地には文明の利器を知らず、知っていても使わず、村から外に出たことのない老婆がいます。それでも彼女たちの幸せな一生を聞くと、深く感動したり、反省したりするものです。


知って不幸になるよりも、知らずに幸せならばいいのではないか。


そう考えるのはこうした時です。


広く学ばず、狭く信じる。これが前向きな答えの一つでしょう。


しかし、文明国から見ると彼らの不幸を発見します。男女差別、低年齢結婚、貧困による女児中絶、低い識字率、教育格差、カースト。


知らなければ不幸のまま、そこから抜け出せません。知らない幸せか、たとえ苦悩しても知って世界を広く捉え、そこから脱却するか。


先進国でも知らないから幸せと思い込んでいる人、知って不幸に陥っている人がいます。知らなければならないことを知らず、知らなくていいことを知って満足している人が多いのです。角度や尺度を変えてみるべきだと思います。


いま、みなさんの目に、世界はどのように映っているでしょうか。


先日、NHKで壇蜜さんがネパールを旅する番組を放送していました。


「壇蜜 ネパール 死とエロスの旅」。


彼女はセクシーなタレントとして知られていますが、不思議な経歴をお持ちで、葬儀学校に通い、遺体と向き合いながら「遺体衛生保全士」の資格を取得し、実際に葬儀場で働いた経験もあるそうです。その容姿からは想像もつきません。


そもそも「壇蜜」という名前も仏教を基に自分で考えたそうです。


「壇」は「仏壇」「御戒壇」の「壇」、「密」は「お供え物」や「お盛物」を意味しているといいます。


その壇蜜さんが人間の数よりも神さまの方が多いというネパールに行き、様々なことを語ります。


非常に興味深い内容でした。


何度も書きましたが、ネパールは不思議なところです。生と死の境界が限りなく低く、その境目が曖昧です。国際空港のすぐ近くで、一年三六五日、途切れることなく二十四時間体制で遺体が焼かれています。


世界遺産・パシュパティナート。すぐ横には人間の性愛、男女間のセックスをテーマにした寺院、そうした仏像やレリーフがあります。市内にはシバ神の男性器を模したモニュメントが地蔵の様に溢れています。


生と死に触れ、人間の業を見据えてきた人らしく、ネパールを旅する壇蜜さんの言葉は一般の日本人よりも深い洞察に満ちていたように感じました。


浅い人ばかりの現代。生も死も、人間の業も、その上辺しか知らないから、常に驚き、苦しむのです。


さて、壇蜜さんよりも深く人間というもの、人生というものを捉えていると胸を張れるでしょうか。特に男性陣、大丈夫でしょうか。


ネパールで小原旭君の三回忌を奉修いただきました。その翌日、私たちはビカスくんの家に泊まりました。ネパール奥地にある質素なお宅です。今回は大地震で崩壊した彼の家が新築され、御本尊のご遷座をさせていただきました。


新築ですが、土間のまま、ドアも窓ガラスもありません。この家に二十人ほどが雑魚寝しました。


深夜、火を囲みながら談笑していました。ふと立ち上がって輪を離れ、夜空を見上げました。その瞬間、長い尾を引く美しい流れ星が見えました。思わず叫びました。


みんなで流れ星を探していたのに、その巨大な流れ星を見たのは黒﨑とし子さんと私だけだったのです。


『見上げてごらん夜の星を』


旭君が死の前夜に歌った曲です。


彼は自身のノートに、黒﨑とし子さんと私の名前を書いているのでました。


あれから二年。その二人が、ネパールの夜空で大きな流れ星を見ました。とても偶然とは思えません。


宇宙は、本当に壮大で、小さな私たちの営みとは関係ないように思えます。しかし、やはり違うのです。全てはつながっています。


宇宙は、完璧なタイミングで、完璧なシナリオで、時間や空間を超えて、私たちに様々なサインを送ってくれています。全てはつながっているのです。


ハーバード大学の理論物理学者、リサ・ランドール博士は五次元の宇宙を発見、興味深い仮説を立てています。この目に映る宇宙と、目には見えませんが隣接する宇宙があるというのです。それは薄い膜に張り付いているかのようで、向こう側には時間や空間を超越した別の世界が広がっています。


彼女の仮説を織り交ぜた映画『インターステラー』では、本棚の一角が五次元世界との接点とされました。そのポイントを通じて、未来の父親が過去にいる娘にサインを送るという物語です。


私たちは、御本尊の向こう側に御仏の世界が広がっていることを知っています。それはまるで時空を超えた五次元世界です。そこは物質的な世界ではなく、時間もゆがんでいることでしょう。しかし、大きな意思の働く世界です。


このことを「本時の娑婆世界」「三災を離れ四劫を出たる常住の浄土」「仏既に過去にも滅せず未来にも生ぜず」「所化以て同体」という、不思議としか言えない、究極の奥義、御本尊の世界といいます。


あちらからはこちらが見える、こちらからはあちらが見えない。


しかし、御本尊を通じて、知っているはずです。壮大な御仏の慈悲、ご采配、サインの中にあるのです。


大ヒットした映画『君の名は。』のストーリーでは神社を取り上げていますが、その内容は仏教の宇宙観そのものです。


映画で使われている曲の歌詞には、


「君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ」(﹃前前前世﹄)


「五次元にからかわれて それでも君をみるよ」(﹃夢灯籠﹄)


などという言葉が散りばめられています。


こうした世界観や宇宙観が若者に受け容れられているとしたら、ファンタジーではない本物の仏教の宇宙観、現証の御利益として次々にサインが顕れるご信心も理解できるでしょう。


流れ星を見た翌朝、ビカス君の奥さんが出生後まだ数ヵ月の蓮ちゃんに懐中御本尊をいただきたいと申し出ました。出発前、御本尊を蓮ちゃんの首にかけさせていただきました。最終日、ビカス君が興奮してこのことを話してくれました。


「ずっと止まらなかった蓮の咳があの瞬間から止まりました!」


壮大な宇宙の力を信じましょう。


御教歌

「はてしなき天つみ空をあふぎみて 仏のひろきめぐみをぞしる」

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