2018年2月21日水曜日

「人生の目的」 中外日報




「人生の目的」 中外日報

2018年2月16日号


経済学者のケインズは、「生きるために働く必要がなくなった時、人は人生の目的を真剣に考えなければならなくなる」と言った。年金生活に入ってから人生の目的を考えるというのは遅きに失した感がある。


米国ハーバード大のビジネス・スクールで死の床にある経営者の言葉に耳を傾ける講義がある。「もっと仕事をすればよかった」と語る人はいない。誰もが「もっと家族や自分のために時間を使いたかった」と話すという。「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を耳にするようになったが、現代人が双方のバランスを取ることに苦心している証左だろう。


仏教が説くのは人間が最も人間らしく生きる道だ。働くことも子育ても人間だけの営みではない。植物も動物も生きるために活動し、子孫を残すために必死だ。彼らの家族愛や子育てから人間が学ぶべきことも多くある。しかし、人間の「生きる」は動植物と異なる。仏教では仕事と生活の中心に何があるかを問いかける。それを知らないから迷い、そこに無関心だから人は苦しむというのだ。


人間は持って生まれた魂を磨き、人間性を向上させるために生まれてきた。人間にしか出来ない生き方、人間の本業とはこのことだ。事業に成功するとか、幸せな家庭を作る、立派な家を建てる、趣味の世界の達人になるということではなく、それらを通じて如何に人間性を向上させられるか、御仏の境涯に近づけるかが、人生の目的や目標であるべきと仏教は説くのである。


本業を知らなければバランスの取りようもない。副業を本業と思い込んでいるから人は苦悩し希望を失う。本業に目覚めることで仕事と家庭、そこに生きる自分の真の姿が見つかるはずだ。


仏教徒とは人間の本業に気づいた人のことだ。仕事や家庭、学業を疎かにするということではない。むしろ本業を盛り立てるために、職場や家庭を人間性向上の場所として生きる。本業を知らずにいた時よりも心豊かに生きてゆける。


人間は何のために生きているのか。難問ではあるが仏教徒ならば伝えられる。精神疾患が増え続ける中、絡まった心の糸を解くために、仏教徒として向き合いたい。人間が生きるための仏教である。


信仰とは人間が本業に気づく旅だ。宗教者として人間の本業、菩薩行を伝え、実践してゆきたい。

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