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2011年12月15日木曜日

幻聴妄想かるた

 先日、「医学界新聞」の記事のためにお伺いした出版社「医学書院」さま。その後、別の本の推薦文を書くようにとお話があり、13日の締め切りギリギリに原稿を書き上げることができました。

 その本は「幻聴妄想かるた」というタイトルの本で、読ませていただいて本当に感動しました。統合失調症というご病気を抱えた方々を支援するハーモニーさまがまとめられたものです。困難極まりない「幻聴」や「妄想」という疾患。このご病気の方々やご家族が前に進み出せるように、幅広く認知されるように、明るく、ここまで丁寧に、具体的にまとめられたことは、画期的なことだと思いました。本当に、すごいです。

 私は、こうした症状を抱える方とご奉公する機会が多いので、とても参考になり、また次のステップが見えてきたような気持ちになりました。

「幻聴妄想かるた 解説冊子+CD『市原悦子の読み札音声』+DVD『幻聴妄想かるたが生まれた場所』付」
http://goo.gl/dBfOJ

「幻想妄想かるた」について  長松清潤

 仏教は、難解なお経や高尚な哲学ではなく、人間学であり、心を育み、心を整えるための「メソッド」です。

 私たちのお寺には、うつ病の方や自律神経失調症に伴うパニック障害、広場恐怖を抱えた方や統合失調症を患う方々が来られます。一般の方にとっては受け容れ難い言動や現象であっても、仏教に基づく対処の方法や信仰によって、心の免疫力が上がるように本人やご家族をサポートします。

 本来の仏教では霊媒や除霊などしません。仏教では、見える世界と見えない世界の境界は薄い膜一枚で、現実と非現実が曖昧なことを知っています。統合失調症や解離性障害等の精神疾患と診断されるような方でも、その言葉を真摯に受け止め、その絡まった「真実」を上手に外界に出して折り合いを探ります。

「湖から霊が飛んできて身体に入ってくる」
「クラスメイトがゴミを投げつけてくる」
「身体の中の黒い塊が話しかけてくる」

 奇怪や滑稽に感じても、その言動はその人の真実、現実です。私たちは、幻聴や妄想を否定せず、彼らに受け止め方と対処の方法、「メソッド」を提示します。私たちはそれを受け入れやすいように「南無妙法蓮華経作戦」と呼んでいますが、たび重なる幻聴や妄想と対話をせず、理解するために神経をすり減らすこともなく、「南無妙法蓮華経」というマントラを唱える「アクション」を勧め、本人がそれを行えるようご家族と共にサポートしてゆきます。社会に理解されず、孤立しがちな状況が多い中で、多くのご家族が立ち直ってゆく姿ほど嬉しいことはありません。

 今回、私はこの「幻聴妄想かるた」や特にハーモニーの方々のお心や取り組みを知り、心から感激しました。ここまで幻聴や妄想を抱える方々に寄り添い、それを慈悲に溢れた効果ある作品にまで昇華させた例を他に知りません。

 この「かるた」に寄せられている言葉は、予期せずこの病気と共に生きることになった本人やご家族、周囲の人をどれだけ癒やし、理解を促し、明るく前向きにさせるでしょう。私たちにとっては貴重な教材となり、彼らとのコミュニケーションを促す素晴らしいアイテムとなるに違いありません。

 ハーモニーさまの活動や「幻聴妄想かるた」の存在が社会に広く知られれば、誤解や事故は少なくなるはずです。この病には「明るさ」や「幅広い理解」が必要だと痛感します。

 生きた人が集う生きたお寺として、今後もこうした取り組みから学び、社会的な責任を果たしてゆきたいと思います。個人的には、
「そうなんだよ 知り合いのお坊さんの声が聴こえてくるんだ」
という幻聴かるたが気になりました(汗)。

 どうか、一人でも多くの方々がこの「幻聴妄想かるた」を手に取り、心の宇宙の大きさや深さを知るとともに、こうした精神疾患の現実を、明るく前向きに受け止めていただきたいと思います。特別な人が特別な人に対処するのではなく、誰もが支援者となり得ます。そんな社会を築くことができればと願います。解説冊子「露地」を読むだけでも、あなたの世界は広がり、多くの気づきがあるはずです。

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