言葉が消えてしまいました。頭の中、心の中を探しても、まだ、見当たりません。
無事に、東日本大震災から2年目となる日を迎え、三回忌のご奉公をさせていただきました。先ほど、トラックより一足先に横浜に戻りました。
いま、帰り道を450キロほど運転しながら、ずっと心の中を探してみたのですが、今日のことを表す言葉が見当たりませんでした。
ただ一つ、何度も、何度も、去来したのは、宮澤賢治の『雨ニモマケズ』の一節でした。
僕には、今日のような日のことを表現する力がないから、明治三陸大地震の直後に生まれ、昭和三陸大津波の直後に世を去った宮澤賢治の言葉を借りて、その気持ちや覚悟、希望を、表したいです。
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『雨ニモマケズ』
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
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被災した方々に、言いたい訳ではないのです。僕自身に、詠みたいのです。
もちろん、今なお厳しい現実の中にいる方々にも、負けて欲しくない。でも、それよりも、「絆」とか「忘れない」とか、いろいろと言うけれど、この大震災にあった特別な意味を思えば、この厳しい現実の外側にいる人間こそ、負けてはならないと思うのです。
みんな、菩薩にもなれるし、鬼にも、修羅にも、獣にも、悪魔にもなれる。でも、実際には、圧倒的な力で、欲望や、エゴや、ずる賢い、いやらしい自分が、暗闇の方へ、本音と建前の方へ、自分さえ良ければいいという方へ、面倒なことだと処理する方へ、自分には無理、自己肯定、自己弁護、忘れた、薄れた、という方向へ、引っ張ろうとする。本人が気づかぬ内に、十四の誹謗を作り続けることもあります。「恨善」や「妬善」は最も情けない謗法です。
そんな心に、そういう人に、負けてはならないな、と思います。そういう流れの方が圧倒的に強いのだけど、そこで負けたら終わってしまう。もっと、もっと、流されてしまう。本物と偽物は、そっくりだから偽物と言うの。流されて、負けてはいけないの。
薄れてしまうのも当たり前のこと。だから「忘れない」「忘れてはならない」と言う。でも、すごい力で忘れてく。すごい力なのだよ。
だから、動く。動かす。歩く。走る。正しい方向だ、御法さまがこうお示しだ、と思ったら、迷わず、歩け、走れ、と自分を励ます。そして、そうする。僕は、いつも、そうしています。
人は、負けます。簡単に、負けてしまうものです。でも、それは哀しいことです。苦しいことです。だから、涙が出ても、辛くても、耐え難い孤独に陥っても、負けてはならないんです。絶対に、負けてはならないのです。
僕は、負けません。覚悟しておいてください。命が、尽きても、大切なものを、負けないように守ってゆきたいと思います。「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」とあるように、そうありたいのです。そう言い聞かせているのです。
宮澤賢治と私の信仰する宗派は違うけれど、彼は法華経の心を詠みました。法華経の中に登場する常不軽菩薩という御方を見習って、この歌を詠んだと言われています。事実、この詩に続いて賢治が書き表しているのは、「南無妙法蓮華経」を中心にして、両脇に釈迦多宝、その周りに本化の四菩薩でした。まさに、菩薩の誓いです。
今日、この詩ばかりが浮かびました。秋山ご住職が言っていたように、あの場に導師として座った途端、涙が溢れ出ました。御題目は尊いお力があります。痛感しました。だから、『雨ニモマケズ』の後には御題目だったのですね。
こうして書いていたら、もう日が改まっていました。トラックも着いたようです。無事で何よりです。妙深寺の強靭な御講師方、ありがとう。本当に、素晴らしいご奉公をしてくれます。有難いです。
今日は、きっといろいろな番組が東日本大震災を取り上げたと思いますが、被災者の方々よりも、負けたらいけないのは、それを観ている人たちの方だと思います。もし、遠くの出来事で終わってしまっていたら、もう負けてしまったということだと思う。あの日から、何かに気づき、何かを学び、そこから何かを変えて、その気づきや変化を、大切に、2年間過ごせたなら、「何とか負けずにやってます」と言えたかもしれません。
とにかく、無事にご奉公をさせていただくことが出来て、有難かったです。
ありがとうございました。
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