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2013年5月15日水曜日

あたしゃあんたの側がいい

我が師匠は、お揃いの麦わら帽子を用意して待っていてくれました(涙)。高倉健さん(82才)のような渋い気品の漂う86才のお師匠さまです。

9才でご両親を失い、筆舌に尽くし難い苦労を重ねてきたこと、予科練でのこと、戦争のこと、桶屋さんでのこと、飯田のこと、「そんな運命だったんだ」というひと言と共に、昨夜、裸電球の灯った納屋の中で教えてくれました。

朝、師匠のお家のご宝前で、みんなでお看経させていただきました。そして、愛情の込もった朝食をいただきました。

「かすもみ」という飯田にしかない超絶に美味しいお漬け物があります。これは「喜久水」という飯田の酒蔵が柔らかい酒粕を出してくれるから出来るものだそうで、必ず食卓に並べられるのだそうです。写真では分かりにくいと思いますが、刻んだきゅうりを塩もみして、砂糖と酒かすにつけたもの。本当に美味しくて、たまらない一品です。

朝食をいただいた後、田んぼへ出ました。師匠の指示のとおりに苗床から取り出して準備を開始。最初からさせてもらわなければ意味がありません(汗)。それを田んぼの畦まで持っていって、自分の手の上に乗るくらいの苗を取り、田植えをしてゆきます。

もちろん、師匠の田んぼも普段は機械で田植えをしているそうです。機械ですると圧倒的に綺麗に、腰も痛くならずに植えられます。それでも、不思議と人の手で植えた方が美味しいといいます。

師匠が引いてくれた線に従って植えてゆきました。何回やってもなかなか上手くならないです(涙)。根の張った苗を3本から5本くらいにちぎり取るのが難しい。根を切らないように、丁寧に、速やかに取って、第一関節までスッと植えて、ゆっくりと引き抜く。慎重になり過ぎて遅くなり、強くし過ぎて根を切ってしまったり、苗が広がってしまったり。難しいものです。

つくづく、苗って、本当にただの青い葉っぱなんだ、と思うのです。当たり前のことかもしれませんが、こんな小さな青草が、命のお米を生み出すと思うと感激します。そういう気持ちになるのですね。

これから9月の稲刈りまで、「食うのを忘れても田んぼの水は忘れるな」と言うくらい水加減に注意しながら育ててゆくのだそうです。毎日毎日、朝も昼も、そうやって育ててゆく。今年は、花が開いた後に霜が降りて、ほとんどの柿がダメになったと聞きました。ある地区は全滅とのこと。近くの柿の木もダメになっていました。そうなると、本当に大変です。

簡単に、大量生産、大量消費とは行きません。それを実現するために知恵を使うことは大事ですが、人間はすぐに行き過ぎて、遺伝子を操作したり、猛毒の農薬を使ってでも生産性を上げようとするでしょうし。自然や生命への畏敬の念を失えば、何でもありになってしまう。

そういうシステムの上に築かれたライフスタイルは、豊かなようでどこかイビツで、どこかが偏っているのですね。そして、心の大切な部分まで欠けてしまうのだと思います。全部を変えることは出来ないけれど、都会と地方、生産者と消費者の、心の距離を近づけることで、何かを取り戻すことができます。

田植えが終わって一服していたのですが、何か物足りなくてケンちゃんがしていた「代掻き(しろかき)」をさせてもらいました。代掻きというのは、田植えをする前の水田で、土を耕したり、ならしたりする準備のことです。「田掻き」とも言います。師匠の田んぼでは丸太を引いて水田の中をならしてゆきます。これは田植えより簡単な体力勝負でした(笑)。

こうして汗をかいて、土に触れて、命の恵みを感じて、何より有難い勉強、体験をさせていただきました。一日や二日では学び足りないのは当然。本当に農業を学ぶなら、一年間くらい師匠の家に住み込みをしなければダメだなー。でも、せめてこの貴重な体験を、これからのご奉公に活かしたいと思います。必ず、実現しますー。

それにしても、ここでお聞きする「ことば」は含蓄に富んでいて、深いなー、と思うのです。

「親の意見となすびの花は、千に一つの無駄もない。」

茄子は、花が開けば必ず実を付けるのですね。だから、花さえ開いたら全部実をつける、無駄がない。それと同じなのが「親の意見」だという教えでした。

それと、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言葉の続きも教えていただきました。何だと思いますー?全く知りませんでした。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。おぼろ月夜の影もイヤ。」

って、すごーい(笑)。おぼろ月夜って、あまり影は出ないはず。そんな夜のうっすらした影も嫌いだというのですから、本当に嫌いということですね。怖いー(汗)。

それと、信州信濃は蕎麦どころ。長野県は男性も女性も長寿日本一。糖尿病と腎臓病を持っておられる方が「お医者さまからうどんはダメだけどお蕎麦だけはいい」と言われていると言っていました。健康にいいのですね。僕も大好きになりました。それに関係する言葉。

「信州信濃の新蕎麦よりも、あたしゃあんたの側がいい。」

面白い。寅さんの口上みたい。側がいいって。すてきっ!

それにしても、やっぱり足腰がガクガク、ガタガタです。普段の運動不足を痛感。本当に、何とか運動しないとー。

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