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2023年7月24日月曜日

重々無尽縁起
















植木雅俊先生の『パーリ文「テーリー・ガーター」翻訳語彙典』(法蔵館)出版記念会に出席して参りました。


錚々たる方々を前に畏れ多く恐縮いたしましたが、植木先生からスピーチと乾杯の発声をするように仰せつかり、恥ずかしながらさせていただきました。


法蔵館から出版されている「翻訳語彙典」シリーズは、植木先生がサンスクリット語やパーリ語から翻訳する際の「翻訳作業ノート」です。


一つ一つの単語と意味、サンスクリット語の文法、イディオム、全てを出して、「だからこう訳す」ということがここに公開されています。


ご自身でも「私が間違った訳をしていたとしても自分でチェックできる」と言っておられますが、先生のスタンスは常に在野の研究者や信仰者に対してオープンで、いわゆる閉鎖的なアカデミズムと一線を画しています。


ご挨拶されていたNHKの三宅民夫さまの言葉にもありましたが、先生の翻訳に対する姿勢は壮大な「ファクト・チェック」のようです。真偽未決の情報が飛び交い、報道機関すら真贋の見極めに苦慮する中、真実を見出そうと努める姿勢こそ尊いのです。


『法華経』や『維摩経 』の「翻訳語彙典」に続き、今回は「テーリー・ガーター 尼僧たちのいのちの讃歌」を翻訳する際の翻訳作業ノートです。


それぞれ、別々のようで離れているわけではなく、すべて繋がっています。


昨日、安部龍太郎先生が言っておられましたが、たとえば『日蓮の手紙』の女性へ宛てた手紙を読んでいて、まるで「テーリー・ガーター」を読んでいたかのように感じる、ということ。日蓮聖人の言葉はブッダが不遇にある女性に語りかけた言葉と重なります。


実際、「テーリー・ガーター」は紀元前3世紀、アショーカ王の時代に編纂されました。スリランカのパーリ語で編纂され、いわゆる「ガンダーラ」には渡らなかった経典で、当然日本にも伝わっていません。ようやく伝わったのは明治以降となります。


残念ながらガンダーラで仏教は権威主義化してゆきました。主要なお弟子方から女性が外され、十大弟子は男性だけとなりました。そうした仏典の多くが日本に到達し、初期仏教の経典や思想は到達できずに悠久の時間が経過したのです。


しかし、「法華経」には初期仏教のエッセンスが見事に継承されていました。読み方を変えれば「仏教の原点に還れ」というメッセージがあり、「仏教ルネサンス」を目的とする真意が読み解けるからです。


日蓮聖人は「テーリー・ガーター」を知るはずもありませんでしたが、法華経に説かれた普遍思想から女性たちへ尊くあたたかい眼差しを向け、実際手紙を受け取った女性信徒たちが涙せずにはいられないほど慈悲に溢れた言葉をかけておられるのでした。


つまり、すべてがつながっています。


この『パーリ文「テーリー・ガーター」翻訳語彙典』も植木先生の大きな金字塔であると思っております。


「女性であることが一体、何の妨げをなすのでしょうか」


「女性差別の社会で釈尊と出会い、自己の尊さに目覚めた尼僧たちの赤裸々な体験談。そのパーリ語原文の構造や各単語の意味を知りつつ、その魅力に迫れる一冊。」


「女性差別の著しい古代インド社会にあって苛まれていた女性たちが、釈尊と出会って、人間としてあるべき〝普遍的真理〟(dhamma、法)を覚知し、〝真の自己〟に目覚めて人格の完成を果たすとともに、自己の尊さに目覚めて溌剌とした生き方に蘇生していった体験が赤裸々につづられている。その女性たちが、異口同音に「私は解脱しました」「私は覚りました」「私はブッダの教えをなし遂げました」「私の心は安らいでいます」と誇りをもって語っているのである。……後世にゆがめられた仏教の女性観を正し、歴史的人物としての釈尊の女性観を知る上で、『テーリー・ガーター』は欠かすことのできない重要な文献であることが理解されよう。」


出版記念会に際して、また多くの方々とご縁をいただき、ご挨拶させていただきました。現代の仏教ルネサンスに向けた胎動を感じます。


最後の先生のご挨拶と奥さまのお言葉に感激しました。先生も何度か泣いておられましたが、奥さまの言葉に私も涙しました。この大作業を支えてこられた奥さま、ご家族の功績こそ拍手喝采をお送りしたいです。


僕が書いた文章が消えてガッカリしているなんて本当にレベルが低いですね。


植木先生は原稿用紙140枚分が消えても諦めなかったし、中村元先生は200字詰め原稿用紙、約4万枚に約3万語が収録されていた原稿を、出版社のミスで廃棄されて、一からやり直したのだから。それがかの『佛教語大辞典』です。


中村元先生は「やりなおしたおかげで、前のものよりもずっと良いものができました。逆縁が転じて順縁となりました」と言い残しています。不屈の精神。


日曜日の生きたお寺・妙深寺は、朝の夏期参詣から班長スクール、ゆるキャンの説明会など盛りだくさんでした。出版記念会にも参加できて、長い長い一日が終わりました。


京都佛立ミュージアムでは良潤師のテラコヤスコラの講演会が終わりました。この『パーリ文「テーリー・ガーター」翻訳語彙典』は一冊ディリーパ良潤師にスリランカへ持って帰ってもらいます。スリランカこそパーリ語の本国ですから。


本当にありがたいです。植木先生と良潤師もすでにご紹介して次なるプロジェクトの作業に入っています。植木先生は「日蓮の手紙」の英訳も終えられました。欧米での出版も直近に控えています。


まさに「重々無尽縁起」、永遠の種まき、本因妙の真髄を感じています。毎日、時間だけが足りません。ありがたいことばかりです。


ありがとうございます。

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