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2024年2月2日金曜日

親の想いを知らない子。今こそ『閑愁録』


幕末、坂本龍馬率いる海援隊の公式出版物『閑愁録』を絶賛した僧侶がいたことをご存知でしょうか?


その人の名は長松清風、後世「幕末 維新の仏教改革者」と呼ばれた人物でした。


『閑愁録』は龍馬存命中に出版された唯一の海援隊による出版物です。この著書が注目されないのは明治新政府が維新直後に取った神仏分離政策や廃仏毀釈運動が要因の一つとして挙げられます。明治維新は国家神道による宗教革命の側面がありました。


海援隊は維新後の国家観を語るにあたり、「神国・日本」ではなく、「仏教」によってあらゆる差別を無くし、真に自由で平等な社会を実現すべき、と考えていたようです。このことが『閑愁録』の中で述べられていますが、そのような構想は革命を牽引する多くの志士たちの思うところではありませんでした。


さて、幕末 維新の仏教改革者・長松清風は、海援隊の『閑愁録』を読んで絶賛を与えています。残されている資料でもその絶賛は明治2年5月13日付、幕末の硝煙の中で暗殺された龍馬や海援隊のことなど誰も気に留めなかった頃のことです。この資料は『日扇聖人全集』第3巻51頁、「開導要訣卅」所収「一二六附録 随喜閑愁録」として記録されていました。


長松清風は、なんと海援隊の論旨を「日蓮聖人が立正安国論で述べられたことと同じではないか!」と、あり得ないほどの賛辞を与えておられます。誰もが見向きもしなかった頃に絶賛したことも重要なことですが、稀代の仏教改革者にとって信奉する日蓮聖人と重ねて賛辞を送ることも重大な事なのです。


あり得ない賛辞を与えた後、彼は以下のような文章を綴っています。幕末 維新の仏教改革者らしい心情であり、今こそ読み返さなければならない一文であると確信します。読みにくいので現代語訳を先にして掲載します。


「死んだ人にしか使いようのない僧侶。次には愚僧、儒僧、不学僧に対して、各宗門はそれらを認める証明書を出して、寺請や寺送などについて宗門の施策を以て死者の葬儀や施餓鬼などの回向によってその地位を保障するので、囲碁や詩歌や茶歌道や酒や女などに耽り溺れて、佛法を護る志のない僧侶を指して、大罪、悪人、異教徒(道に外れた者)、すべてを食い尽くすイナゴ、ブッダの敵、国の敵と厳しく咎めた。


しかるに、末法悪世の凡夫は、未だ道心の起きていない幼い頃に出家して、死ぬまでには信心が起きるだろうと言う。形だけ僧侶になって三宝の大きな恩を蒙り、大きな寺などに住むのは、一体彼らに何の徳があるというのか。思い知れ、彼らは宗門の行政のみに命を使うだろう、思い知れ、と厳しく咎めている。


ため息をつきながら言えば、あぁ衰えてしまった、私たちの佛法よ。我が日蓮聖人もはじめ街頭に立って辻説法から天下に対して佛法の誤りを諫め諭した。こうして多くの人が誘われ、信心修行する者も全国各地に生まれたのである。そして、小さな庵は大きな寺院や堂社となり、高い座から説法できるようにもなり、学寮などの施設も出来たのである。今や本当の教導が無いために、檀信徒は他の宗派や信仰へ移り、信者は日々月々に少なくなっている。そして、寄附や財の有志等は少しも集まらなくなっている。


ただ、死者の葬儀や宗門行政をしていることに安心して、この尊い佛法を弘通する道が途絶え、一人として精進している者がない。確かに佛法は滅びようとしている。どうしたらこの道を元のとおりに開けるだろうと嘆くのである。だからこそ、私はここにこの「呵惰醒酔論」という一巻を著した。この書物は法華門流の要旨の筋を教えるものである。いずれにしても、末法悪世の智慧も能力もない世であるから、せめての足しになればと思って記した。これらは暗に前掲の二つの書物の論旨に合致している。」


原文

「死人ヨリ外ニ用ナキ僧侶 次ニ

愚僧 懦僧    不学僧ヲ、サシテ

└アホ └ヤクニタヽズ └モノシラズ

宗門ノ證印。寺請 寺送等ニ付

死者 葬法 回向 施餓餽等ノ舊政ニ付 安ジテ 常ニ弘通ノ志ナキ故ニモノ学ビモセズ

圍碁 詩歌 茶 花 酒 女 等ニ

耽(タン)   溺(デキ)

└タノシミミダレ └オボレ 心ガ、ハマリテ、アガル事ガ、ナラヌヲ云

護法ノ志ナキ僧侶ヲ

大罪 尤悪 外道 蝗蟲 佛敵 国敵等、呵責シタリ、

サレバ、末世下根ノ凡夫、未起道念ノ幼少ヨリ、出家シテ、畢生信ト云コトヲ知ラザルニ至ラン、形チノミノ僧等三宝ノ大恩ヲ蒙リテ、大寺大山ニ住持スルハ、何レノ德アリト云ヤ、思ヒシレ、舊政ニノミハテンヤ、思ヒシレトノ呵責也。

歎息シテ曰、嗟呼衰タリ、吾佛法、宗祖ハ、始め往還大道ノ辻説法ヨリ、天下ヲ諫暁シ、一切ヲ誘導シテ、信行ノ者モ、所々国々ニ出来セリ、故ニ小菴モ、大寺伽藍トナレリ、故ニ高座説法トナリ、学寮モ出来ス、方今ハ教導ナキ故ニ、旦越ハ他宗ニウツリ、信者、日々月々ニ減損ス、故ニ寄附勧財等、少シモ集ラズ、学文所アレ共、素讀ダニモ教ヘザレバ、学フ者モナシ、故ニ法門ヲシルモノモナシ、

只 死者 葬法 舊政ニ安ジテ、大法弘通ノ道フサガリテ、一人トシテ通フ者モナシ、佛日マサニ滅セントス、イカニセハ、此道ヲモトノ如クニ開カントナゲク、故ニ此比呵惰醒酔論一巻ヲアラハセリ、此書ニハ、門流ノ要学ノ筋ヲ教ヘタリ、所詮下根下機ノ時世ナレバ、セメテ、タニモトテ、誌セリ、上ノ二書ニ説亦暗合スルモノ也。」

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