ルチアーノ・パヴァロッティが亡くなったと聞いた。私のような者でも、彼の歌声だけは特別だと感じて、クラシックに興味を抱かせてもらった。若い頃、ハリウッドにあるヴァージン・レコードで彼のCDを買い漁ったことを覚えている。
“キング・オブ・ハイC”と呼ばれた素晴らしい高音域の声。今でも車の中には三大テノールの共演、プラシド・ドミンゴ氏とホセ・カレーラス、そしてルチアーノの友情を感じながら聴けるCDを入れている。なぜなら、この3人の共演には物語があるからだ。
3人の中の、カレーラスは白血病と闘っていた。彼としてはテノールとしてキャリアの絶頂にある時だった。医師から回復の可能性は10%と宣告を受けた。1987年のことである。全財産を投じた治療でも完全に回復することは出来ず、復活できない。失意の中、白血病患者を支援しているHERMOSA財団の援助を受け、治療・療養の結果、見事に回復し復活を果たした。
後に、カレーラスはこの団体が政治的・芸術的ライバルであったプラシド・ドミンゴが創設したものであることを知る。ドミンゴは、特にカレーラスを支援するために、この団体を創立したのだった。深く感激したカレーラスは、ドミンゴの演奏会の舞台に上った。そして、ひざまづいて彼に許しを求めたという。ドミンゴはカレーラスを立たせると2人で抱きあい、それから特別な友情が始まったとのことである。1988年、カレーラスは白血病の研究と骨髄提供者の登録の支援事業に財政的支援を行う慈善活動のため「ホセ・カレーラス国際白血病財団」を設立した。
このようなエピソードがあり、友情があって、世界の冠たる三大テノール、プラシド・ドミンゴ氏とホセ・カレーラス、そしてルチアーノ・パヴァロッティが加わり、三人の共演が実現したのだった。そして、その中でもパヴァロッティの歌声は他の二人を圧倒するように響いていた。その3人の中で、パヴァロッティが最初に亡くなるとは。世の無常を感じる。「会者定離は娑婆の習い」と。
グランデ・ファミリアのエンディングを考えていた時、トリノオリンピックの開会式で見事な歌声を披露して、プッチーニ作『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」を歌いあげたルチアーノ・パヴァロッティの姿が目に飛び込んできた。この歌声を元にしてグランデ・ファミリアのエンディングとさせていただいた。地球に響く歌声、人々を一つにする声の響き。彼の歌声を聞くと、長男も「グランデ・ファミリア」と叫んでいた。音楽、歌のインパクトとは、本当にすごい。音楽、歌は、簡単に国境を越え、言語を越え、世代を超えてゆくのだから。
昨年、膵臓がんの手術を受けたと聞いていたが、残念ながら、昨日2007年9月6日、モデナの自宅にて71才の生涯を閉じた。そういえば、彼は歌う前後によく『合掌』をしていた。あの姿を思い出す。
せめて彼の霊魂に対して、御題目をお唱えさせていただこうと思う。
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