もう夜明けです。お昼には移動しなければならないので、動けるだけ動きます。
12月に撮影のために四国に来た時、ちょっとした冒険をしました。あの時は、亀ちゃんと2人、夜中じゅう車を走らせて4時過ぎに高知に着きました。明け方が近づいていて、日の出のシーンを撮りたいので仮眠するわけにもいかず、「なか卯」に立ち寄って朝ごはんを済ませました。そして、そのまま桂浜に行って、撮影を始めたのでした。そんな映像が、「坂本龍馬と仏教展」で放映したオープニングやエンディングの映像に使われています。
夕方、高知での撮影を終えて、丸亀に移動しました。龍馬たちが行き来した瀬戸内の風景を撮影したかったのです。夜、丸亀の本門寺にお参詣させていただき、翌朝瀬戸内海を見渡す岬を目指して移動しました。
Google Mapで割り出した「五色台」という地名だったと思います。小野山師も高台なのでいいだろうと言い、車で海岸線の細い坂を登り、ちょっとした公園のようなところに出ました。
誰もいない閑散とした展望公園。車を停め、外に出て撮影ポイントを探すと、草が生い茂っていて瀬戸内海を見渡すことが出来ません。画面の中にどうしても草木が入ってしまいます。
ふと見ると、公園の奥に小さな案内板があり、この先の細い道を進むと岬の突端まで行けると書いてありました。
楽か苦か選択しなければならない場合、必ず「苦」を選ぶ僕は、迷うことなく、「よし、行くぞ」と告げ、撮影機材を担ぎながら、「マムシ注意!」という入口の看板の横目にして、小野山師と亀ちゃんと歩き始めました。
両側に背の高い雑草が生い茂り、地面は落ち葉に覆われていて、ちょっとしたジャングル。最初の頃は「龍馬が脱藩する時に通った道は、こんな感じだったんじゃないかなー」と余裕のある話をしていましたが、歩いても歩いても視界が開けません。「戻った方がえんちゃいますかー」という小野山師や亀ちゃんの言葉を遮り、「ここまで来て引き返せるかー」と前に進み続けました。きっと、この先に理想の撮影ポイントがあると信じて(笑)。
重たいカメラや三脚を担いで30分近く歩き続け、突然道が崖のような急斜面になりました。革靴で歩く限界。しかし、もう引き返すことは出来ません。車が近くを走っているような音が聞こえてきたので、そのまま下りてゆくことにしました。
突然視界が開けたかと思うと、五色台に登っていく前の海岸線の道に出たのでした。結局、森の中を歩きに歩いて、下の道に出ただけという情けない結果となりました。しかも、ここから車を駐車した展望台までは、車道を歩いても7キロ以上あると表示されていました。もう、重たい機材を担いで森の中を引き返すなんて考えられません。タクシーなんて通るわけがない。タイムリミットも迫っていました。
そこで、私たちが考えたことは、ヒッチハイクでした。展望台の駐車場まで一人を乗せて送っていただき、その人が車を取って帰ってくるというプランです。スーツ姿。寒い風が吹き付けていて、足元はドロドロです。頭に浮かんだのは、そんなアイデアでした。
ところが、たまに通る車に手を振ったり、ヒッチハイクの人がするように指を立てたりしても、車が停まってくれません。しばらく続けていると、何人か停まってくれましたが、僕たちの哀れな話を聞くだけで、「おばあちゃんが寝たきりだから」とか「これから病院に行くから」とか「ごめんなさい、急いでるのでー」と言って走り去ってしまいました(涙)。
呆然としていると、亀ちゃんが「もー無理ですってー。そりゃそうですよー、犯罪のにおいがしますよー。」とか言い出します。そう言えば、この時間帯にこの場所を通過してゆく車は、軽自動車を運転する女性が多いようです。思わず、僕たちの姿を見ました。小野山くん、そして僕。身体が大きく、頭の毛が短い、何か怖そうな人相。車を停めてくれているのは、そんな巨体のスーツを着た妖怪みたいな男が2人、ひと気のない海岸の細い道で、必死に手を振って車の前に立ちはだかっているからです。脅えて車を停めてくれていて、説明を聞いても、誰が妖怪を乗せるものかと亀ちゃんは言うのでした(涙)。
「そりゃそーだ」と思いながらも、諦めずに車を停めてお願いするしかありません。「とりあえず、小野山くん、後ろに下がっていて、まず、僕がかわいい顔で車を停めるから、いい?」とか言って、僕より少し怖い人相の小野山くんを道路から遠ざけ、諦め切っている亀を尻目に道路に出ていました(笑)。すると、また一台の軽自動車。男性です。停まってくださいました。事情を説明すると、「よっしゃ、いいよ」と言ってくださいました。ありがたいー!展望台までは小野山師に行ってもらいます。ここで、小野山師登場。よし、小野山師を見ても怯えません。よかったー。山道を往復15キロ近く走っていただくのですからガソリンも使います。ガソリン代を渡そうとすると、「いらないよー。みんなであったかいコーヒーでも飲みなー」と言ってくださいました。こうして、遭難した僕たちは無事に戻ってこれたのでした。
小野山師を待っている間に、その道路から見えている瀬戸内海を撮りました。早い潮の流れ、行き来するタンカー。待っているこの場所の視界は開けていたんです(汗)。そして、この時の映像は、しっかりと「坂本龍馬と仏教展」のオープニングやエンディングに使われています。苦労した分だけ、僕たちにとっては特別きれいな映像です。
2013年4月8日月曜日
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