2009年8月6日木曜日

クスリに冒された世界

 ゆっくりテレビを観ていないから分からないのだが、大きな芸能ニュースが2つある。それぞれ、関連しているのは「麻薬」「クスリ」による逮捕などだという。マイケル・ジャクソンの突然の死についても「薬物」の影響などが取りざたされており、もはや「クスリに冒された世界」ではないか、と恐ろしくなる。
 私は、トランペッターのチェット・ベイカーが好き。何ともいえない、やさしい音、人間っぽさ、哀愁のあるトランペットの音色が、本当に、好きだ。女性の声だと思っていた「My funny Valentine」という曲が有名だが、彼の風評を聞き、事実を知りたくなって本を読んだ。
 チェット・ベイカーは、ボロボロのジャンキーとして知られ、その美声とは裏腹におぞましい一生を送ったアーティストとして名を知られていた。あの頃の、数多くの音楽家たちがクスリによって命を落としたように、彼もアムステルダムのホテルで不可解な死をとげていた。伝記作家として著名なジェイムズ・ギャピン氏が、分厚い彼の伝記「終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて」を出版しているので、私は社会や人の心の暗部を知るためにも、この本(高額で、540Pと分厚いのだが)を取り寄せて読んでみた。
 題名のとおり、終わりのない闇を見せられた気がして、本当に、1ページづつ読んでいくことの辛い、苦しい、読み終わった後(きっと、多くの人が読み終えないと思うが。途中で読むのを止めてしまうだろう)の後味も極めて悪い。
 彼に限ったことではな。人間の心の弱さ、欲望、虚しさ、孤独、その不安、怖さは誰にでもつきもので、そこから逃れたいと、逃げ道を探していることも彼に限ったことではない。彼は、恐ろしい闇の中にいて、クスリに溺れるようになり、その闇から生涯を通じて抜け出すことは出来なかった。クスリを手に入れるためには、どんな手も使い、絶対に手放してはいけない人にも嘘をつき、裏切り、犯罪にも手を染めていく。彼のファンであった医者の協力を得て、特定の国では合法化されている薬物を処方してもらい、あるいは偽の処方箋を作ってクスリを手に入れることもあった。
 私たちからすれば、彼を弁護しようにも弁護のしようがないほど、その生活は荒み、一貫性がない。彼は特異稀な才能を持って生まれた。しかし、その才能によって、その他の人には理解も共感もできない孤高の頂に、たった一人で立ち続けなければならなかった。マイケル・ジャクソンの死に相通じるものがあり、私はマイケルの訃報に接して、なぜかチェットを思い浮かべた。その孤独も、専属の医師がいたことも、その医師から強いクスリを処方してもらっていたことも、チェットと共通することだったから。
 ブラジルのファベーラでも、ドラッグが蔓延している。無法地帯だから需要と供給が成立しているということではなく、この日本でも、これほどドラッグ、クスリ、麻薬、覚醒剤が蔓延し、そこから苦しみの人生に陥っている人が多くいることが、恐ろしい。暗闇、終わらない闇の中にいる方々が、大勢いる。有名人とか、一昔前の成功者、著名人など、人生を翻弄されてしまう人、クスリに逃げ道を探す人が多くいる。そこに、何とか光を当てられないのだろうか。
 ヒンドゥーでも密教でも、「非日常」を作り出すためにトランス状態を求める秘技がある。トランス・パーソナル心理学では、LSDやマリファナを使って、深層心理・無意識の領域を無理矢理開き、自己を見つめたり、精神的な問題を直そうと試みた。恐ろしい問題もあり、これは非合法化された。オウム真理教では、「修行(?)」の過程で麻薬を使用していたと報告されている。日常では知ることもなかった自分の心の奥底に眠る「自分自身」に気づかせて、狂気の信仰心を煽り、培った。結果は、誰もが知るとおり、それこそ「終わらない闇」だった。
 他人事にせず、我が身の心の弱さを知ることが、まず第一に必要なことだと思う。みんな、一生懸命、肩をはって、生きている。しかし、すぐそこに、恐ろしい闇が存在していて、フッとしたことから闇の中に堕ちていってしまう。そこに至らない、そこから抜け出すために、御仏が教えを説いてくださっている。その「信仰」、その「信心」を、みんなが普通に、身近に、していくことの大切さを思う。
 いま、こうしてクスリが蔓延している状況を知り、「心の闇に光を」というブッダの言葉を思う。
「斯の人世間に行じて 能く衆生の闇を滅し 無量の菩薩をして 畢竟して一乗に住せしめん」

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