しかし、この宇宙法界、地球上、北も南も、国境も人種の別もなく、真に普遍的な教えが真実の仏教。一月にスリランカ、二月イタリア、三月から四月にかけて、アメリカ、ブラジル、フランスでご奉公する機会に恵まれ、痛切に感じたのが季節や時差、言語や文化の違いを超えて、活き活きと受け継がれる真実の仏教、本門佛立宗のご信心、そこで随喜する人々の姿だった。大変な勉強となり、刺激になった。
特に、ブラジルでのご奉公では、現地の御導師、御講師やご信者方と一緒にご奉公させていただき、遙かブラジルで息づく佛立信心の真髄を感じて、喜びに打ち震えた。
今や一五〇万人を越える日系人社会は、一九〇八年四月二十八日、お祖師さまの立教開宗の記念日に開始した第一回移民が原点である。その移民の創始者、水野竜氏は、東京・清雄寺所属の本門佛立宗の信徒であった。 水野氏は、過酷な新天地開拓に佛立信仰は欠かせぬと、日教上人を訪ねて教務員一名の派遣を依頼。日教上人は、暫し沈思された後、二二才の若き青年僧、茨木現樹師を選任。後のブラジル弘通初祖、権大僧正日水上人が師命を帯びてブラジルに渡ることとなった。
かくて、第一回移民七九八名を乗せて笠戸丸は神戸港を出港した。希望に胸を膨らませていた一行を待ち受けていたのは想像を絶する過酷な環境と労働であったという。日本からの移民者たちは、永らく苦渋の生活を強いられ、その中で日水上人もまた血涙をぬぐいつつ生き抜かれ、希望を捨てなかった。
この日水上人の壮絶な御生涯を、ブラジルのコレイア・教伯御導師が編纂し、第一級資料を駆使して「日水上人伝」として刊行された。ブラジルに仏教を伝えた日水上人の実像と偉業とが明らかになれば、本年が日系人に限った記念の年や一宗派に限られた記念の年でないことが分かるはずだ。人種の坩堝、南米・ブラジルの全国民にとって記念すべき、「仏教伝来百年」が、今年の真の意義ではないか。生涯を賭して仏教を伝えた菩薩たちの物語、この本の発刊こそが偉業だ。
ブラジルに移民した佛立信徒が、最初に建立したリンスの大宣寺。記念すべき大法要には、日系人を中心として多様な人種の参詣者が溢れていた。これこそ日水上人をはじめ、先亡教講の血の滲むようなご弘通、菩薩行の結実である。日系人がもたらした真実の仏教は、百年を経て確実に人種の枠を超え、ブラジルに根付き、真に花開いた。
日水上人の薫陶を受けた教講は、百年のたゆまぬ菩薩行を振り返り、それを噛み締めるようにご奉公を進めてきた。日本からブラジルに赴任し、ご奉公くださった御導師や御講師方、ブラジル本門佛立宗の功労者、世代を重ねてご信心を相続してきたご家族など、細やかに配慮して顕彰されておられた。 ブラジルの過去、現在、未来。ブラジル教区長・斉藤御導師は、「今後は、ブラジルのみならず、南米全体を視野に入れて、ご弘通ご奉公を進めてゆく所存です」とご挨拶くださった。温故知新、歴史を振り返り、未来を切り拓く。その篤い志に、つくづく感激した。
昨年、準備ご奉公のためにブラジルを訪れた際、はじめて『日水上人の歌』を聴いた。日本の風情を感じさせるイントロ、ラテンの独特な旋律、ポルトゲスの歌詞。この歌は、まさに記念ご奉公の柱として機会ある毎に歌われていた。ブラジルに生きる佛立信徒の想いが込められ、作られた曲であった。 私は、彼らがこの曲を歌うのを何度も見ていた。何となく歌詞も覚えて、口をモゴモゴと動かしてメロディを追う。しかし、昨年はポルトガル語だったため、意味を知らずに帰国してしまった。今年、この意味を知って、涙が溢れた。
『日水上人の歌』
大きな夢を背負った彼は
大きな夢を背負った彼は
遙かな国よりやってきた
強い信心と根気強さとで
希望でしかなかったものを実現した
森林や珈琲畑の中に於いては強風や嵐に挑んだ
歩み行く道にも何もかも
信じられなくなった人々を勇気づけた
ああ、日水上人
あなたのように強くなりたい
法華経のみ教えを学び
どこへ行っても信を伝えたい
肥えた土に植えられた種が
珍しく美しい樹になるように
良質の土に強い根をはり
すべて自然の力が現れる
やさしさを表情に浮かべながら
謙虚に信心を説き弘め
決定して躊躇わず唱えた
南無妙法蓮華経と
ああ、日水上人
あなたのように強くなりたい
法華経のみ教えを学び
どこへ行っても信を伝えたい
機会を設けるので、この美しい曲を聴いていただきたいと思う。ポルトゲスだが魂に響いてくる。
私は、この歌詞にある、「あなたのように強くなりたい」という一行に特別の感慨を抱いた。ブラジルの、特に若い御講師方を含めて、一同が日水上人の「強さ」に近づこうとしているのを感じるからだ。それは自分自身の弱さを認め、素直な謙虚さの上に立って、「あなたのように強くなりたい」と目標を立てているように思う。
ブラジルの御講師方は約二十名。日系もいれば、ヨーロッパ系も、アフリカ系もインディオ系もいる。日本語、ポルトゲス、スペイン語、英語が飛び交う。情熱的で明るく、和気藹々の彼らが日水上人の強さを目指してご奉公しているのだ。ブラジルは世界を教化するための母胎。近い将来、彼らこそ佛立の世界弘通を担うだろうと思う。
人間は弱い。つくづくそう思う。少しでも気を緩めれば、流されて、挫けて、倒れてしまいそうになる。その弱い私たちが、共に支え合い、励まし合い、互いに幸せになろうと歩んでいる。それがご信心だ。だからこそ、師の強さに学んで、それを目標として生きていきたいと願うのである。
ブラジルの方々から学びたい。私も、誰も彼も、苦しみや迷いや、不安に満ちた末法に生きながら、あなたのように強くなりたい、と。
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