終戦80年 特別作品
「如実知見」
杉野宣雄
「如来は如実に三界の相を知見す」
——妙法蓮華経 如来寿量品第十六
久遠の仏はこの世界〈欲界・色界・無色界〉を一切の覆いなくありのままに見通す。
一方、人間は欲望や先入観、固定観念によって真実が見えず、真相にたどり着けない。
本作は久遠本仏の「あるがままに見る」という徳性と世界の真相を表現した。
地下で複雑に絡み合う根、そこに結ばれた菩提樹の葉。仏陀の透徹した眼差しのように、静かに輝く白蓮が正面を見据えている。
中央の菩提樹の葉は仏陀が成道したインド・ブッダガヤのもの。その葉の上には宇宙の真理「南無妙法蓮華経」の題目がうっすらと浮かんでいる。名もなき若草たちにも必ず根があることを伝えている。
あらゆる結果には原因がある。因・縁・果・報。過去があり、現在があり、未来がある。
人間の多くは目の前に現れたものしか見えず、見えていたとしても自身の偏見に邪魔をされて背後にある因縁に気づけない。因果の道理を見失うから誤解し、または誤解させ、争いを生み出し、それを繰り返す。本作に人間の抱える業や性、仏教による平和への希望を込めた。
杉野宣雄
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「石中の火、木中の花」日蓮聖人 / 観心本尊抄
石の中に火は見えず、木の中には花の色もありません。
しかし、石は打てば火が出て、草木は時がくれば芽を出し、花を咲かせ、実もつけます。
大切なものは眼に見えない。しかし、私たち凡夫の眼には見えなくても、大切なものは確かに存在します。
人間が抱える愚かさと可能性。人の心の中に鬼もいれば、仏も菩薩もいる。見えないけれど、必ずいる。信じることは難しいかもしれないけれど、国も、人種も、言葉の壁も関係なく、誰の心の中にも仏がいる。そう信じて、利他の精神で生きる。それこそ仏教であり、日蓮聖人の教えです。
複雑に絡まった因縁の根本に、それらを振り解く本因本果、真理の法があります。南無妙法蓮華経とはそんな希望と真実を意味しています。
石の中の火、木の中の花は、信じ難いけれど、確かに存在します。人の心の中にも仏はいます。平和への道は、人間の愚かさと可能性を知ることから始まる。先生の作品を見つめながら、日蓮聖人の最も重要な御書の一節を思い返し、そのような考えを深めました。
京都佛立ミュージアム 館長 長松清潤
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