ジーン・ハックマン主演の映画、『ミシシッピバーニング』という映画を覚えていますか。社会的な問題作を描くアランパーカー監督の作品で、1988年に公開されました。実話をもとに製作され、扱っている問題とFBI捜査官に扮したハックマンの迫真の演技が強烈で、一度見るとなかなか忘れられない映画だと思います。
アメリカの病巣、ほんの数十年前に起こっていた人種差別問題。その中心的な存在だったKKK(クー・クラックス・クラン)によって引き起こされた殺人事件を中心に、人種差別が色濃く残るアメリカ深南部の実態と人間の愚かさを描いた映画でした。一般的には「KKK」として知られる「白人至上主義」「反外国人主義」の秘密結社ですが、その名称はギリシア語の「車輪・円」を意味する“クークロス Kuklos”に由来します。また「クラン」とは「クランズマン」=「会員」という意味から来ているようです。
64年、ミシシッピーの小さな町で、3人の公民権運動家の行方不明事件が発生し、そこにFBIの若きエリート捜査官と、たたき上げのベテラン捜査官が捜査に乗り出してゆきます。ところが、住民は彼らに敵意をもった目を向け、KKK団が執拗に捜査を妨害する。困難な状況のもと、思想も捜査方法も正反対の2人は、対立しながらも事件の真相をひとつひとつ暴いていくという映画。あの時代とはどういうものだったのか、当時の南部社会がどうなっていたのか、実にリアルに描かれています。人間の尊厳や誇り、憎しみや悲しみ、怒りについて問いかけてくる社会派サスペンス映画です。
政治家から警察官という公職にある人が、ある種の自信と自覚をもって「人種差別主義」を標榜していたのは何故なのか。単純に「いじめ」のようなことをしていたのではありません。彼らはある種の目的や使命感を持っていました。現代の私たちから見て、「あれでも人間か」と明らかに憤りを覚えるような行為も、白人至上主義の彼らにとっては正当性があり、崇高な使命のためにやっているような感覚を受けます。
この映画をここで取り上げた最大の理由は、捜査に協力するはずの警官が、実はKKKのメンバーであることが判明し、包囲網が犯人に迫ってくる段階で、ここで警官の妻がジーン・ハックマン扮するFBIの捜査官に告白をするシーンがあるのです。彼女は苦しそうにアメリカ南部で人種差別が残り、夫もそれに巻き込まれてしまった理由を語ります。「教育が悪いのよ。子どもの頃から『聖書の創世記9章27節に書いてある』って教え込まれる」、と。人種差別は、南部の敬虔なキリスト教信者たちが最も敬い崇める聖書(バイブル)からきている、というのです。このことを知っていただきたいと思うのでした。
この章、創世記は旧約聖書の冒頭。ご存じの方もいると思いますが、特にこの27節の前後は「ノアの箱船」で有名な物語が書かれた部分です。箱船から出たノアとその家族が農夫になった後、ささいなことからノアが怒りだします。ノアにはセム、ハム、ヤペテという3人の息子がいますが、そのハムはしたことに激怒し、ハムの息子カナンを名指しして、25節「彼は言った。カナンはのろわれよ。彼はしもべのしもべとなって、その兄弟たちに仕える」、26節「また言った。セムの神、主はほむべきかな、カナンはそのしもべとなれ」、27節「神はヤペテを大いならしめ、セムの天幕に彼を住まわせられるように。カナンはそのしもべとなれ」。仏教徒の私からすると、この部分だけでも偏った考え方に恐ろしさを感じますが、これを「黒色人種はその特別な堕落の状態が述べられている」として、「カナンの末裔が有色人種である」という見解に発展し、「彼らが我々の奴隷となることは神が定めたのである」という解釈に至るのでした。
私は、このロレイン・モーテルの中に作られた国立公民権博物館で、この中に飾られたKKKの実物のコスチュームを見ました。映画の中でしか見たことのない、あの恐ろしい白装束が飾られ、それを小学生や中高生の黒人と白人の学生たちと共に見て回ったのでした。
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