2008年9月11日木曜日

7年目の9.11

 日本時間の今夜、米国・ニューヨークで起きた同時多発テロから7年目を迎えた。

 あの夜、確かキッチンでニュースを観ていたと思う。先住がご遷化してから時間が経っておらず、手探りのご奉公を必死に続けていた頃だった。

 衝撃的な映像だった。私たちが観ていたのは、ウェザーニュース用の定点カメラだったと思うが、それでも黒煙に包まれるニューヨーク、そして、あの街の象徴だったワールド・トレード・センターの燃え上がる映像は身を震えさせた。




 私は、すぐに友人たちに電話をした。訳も分からず、とにかく電話した。家族は揃っていたが、これから一体どうなるんだろう、覚悟しなきゃいけない時代が来た、というようなことを、横目でテレビを観ながら話していたと思う。

 全世界の人の現前で、あの事態を見せしめることがテロリストたちの思惑だったに違いない。ある意味で、その意図は達成されてしまった。私たちは、恐ろしい時代の幕開けを、あの映像から思い知り、そして事実、恐ろしい時代の幕は切って落とされたのだった。

 今朝、妙深寺ではYaccoさんが同時多発テロの犠牲者に対してご回向をしてくださっていた。お参詣の方々も同じ気持ちで御題目をお唱えになったと思う。もちろん、7年前の今夜、あのニューヨークで起きたテロの犠牲者のみならず、あのテロによってヒステリックに行われた対テロ戦争、政権浮揚をも狙ったかのようなブッシュ政権が推し進めた「不朽の自由作戦」と、偽の衛生写真を見せつつ突き進んだイラク戦争など、あの夜を起点として起きた紛争とテロ、戦争による膨大な犠牲者の方々の霊を、心から悼んだ。

 精神的な病いではないが、「オール・オア・ナッシング」の選択肢を狭められた状態で、進められた戦争。日本も、「国益」と称して追従することを余儀なくされた。余儀なくされたといえば語弊があるかもしれない。当時の小泉首相の判断は、国民の得知らぬ米国との密約を察するに余りある迅速な対応だった。「国益」ということは、あの戦争によって犠牲となった全ての人々と、その後の世界に対して私たちには責任があるということである。「自分の利益」によってあの戦争を肯定していることになるのだから。私も含めて、である。恐ろしいことだ。

 米国同時多発テロの衝撃は、あの夜に限定されたものではなかった。あの夜、犠牲になった方々だけが犠牲になったのではなかった。あの夜を皮切りとして、テロリストたちの意図したところに引きずり込まれた米国との戦闘、攻撃、テロリストの反撃、テロ、報復によって、世界中の人々、特に犠牲となった非戦闘員である子どもたちや女性たちが相次いでいる。先日のアフガニスタンで命を落とされたNPOの方も、7年前の夜から始まった一連の紛争による犠牲者であるかもしれない。

 こうした一連の出来事を経済的な理屈が後押しする。いま、イラクでは石油企業が跋扈し、その利権を西欧諸国が競って獲得しようとしのぎを削っている。ロシアなど、石油燃料資源を国際政治の強力な武器として活用しようとしている強国が誕生している時代にあって、中東、特に膨大な原油を埋蔵するといわれるイラクを安定化させることは責務であったという声も絶えない。テロによって不安定化すれば、日本のライフラインである安全な航路を確保できないという事実もある。だから、現在に至るまで、あの夜から始まった戦争は肯定され、支援すべきだという理屈だ。

 政治の責任は重い。そして、その政治は、突き詰めれば国民一人一人の責任となる。しかし、情報は国民にとって非常に限られている。私たちは、限られた情報の中で選択を強いられ、そうであるがために立場を保留しながら、無為に時間を過ごしてしまう。今でも続く紛争は、深い傷を人々に残しながら、同じようにこれからも大きな代償を強いてくると思う。

 私は、同時多発テロで攻撃を受けたとされるペンタゴンを見て、複雑な心境になった。去年もワシントンに訪れたが、テロ後に初めて訪れたのはブッディスト・トランス・アメリカの収録の約4年前だった。私には、このペンタゴンに対して本当に攻撃があったのかどうかは分からない。陰謀説などを唱える本が何冊も出版されている。私もそれらを読んだ。限りなくクロに近いが、何とも確証には至らない。これも、ブッディスト・トランス・アメリカで訪れたダラス、あの場所で起こったケネディー大統領の暗殺事件と同じように真相は闇の中なのだろうか。

 ワシントンのホワイトハウスの前に、年老いた女性がいる。映画「華氏911」のラストにも登場した女性である。彼女は、過去何十年も世界最強の超大国であるアメリカの元首、ホワイトハウスの前に野営して反戦・非暴力を訴えている。確か、彼女は国連に勤めていたはずだ。反核運動に身を投じ、彼女のテントの前には広島や長崎で被害を受けた子どもたちの写真も並べられていた。なんという勇気、行動だろう。

 1981年、全てを捨てて彼女はこの場所に居座ろうと決めた。本当のところ、彼女の心に何が起きたのかは分からない。しかし、猛烈な焦燥感、正義感、危機感によって、彼女は世界最強国家の元首に対して直接行動をすることを決めた。

 アメリカの多くの人たちは、「彼女が居座ることを許しているアメリカこそ、やはり民主的なのだ」と言うかもしれない。確かに、ロシアや中国では一夜で退去させられているかもしれない。しかし、彼女も同じだ。何度も退去を命じられたが、不屈の精神で戻ってきた。アメリカの民主主義は、単に矛先をかわすだけのためにあるのではないはず。

 私には、彼女を気が狂っていると言い切る気持ちはない。彼女の行動に対して敬意を抱いている。今年、彼女にはカステラの差し入れを持って行った。ワシントンの街並みは凍てついていた頃だったので、とても喜んでくれていた。30年近くあの場所にいて、反戦・反核を訴え続けてきた彼女の、使命感と行動力が私にあるだろうか。常に、反省させられる。評論家にはなりたくない。私も、2003年11月、イスラエルに向かった。あの当時、行動しなければいてもたってもいられなかった。あの紛争の近くに身を置き、愚かな人間の行為を学びたいと思った(しかし、相次ぐ渡航者の拉致や誘拐、殺害事件を見聞きすると、今でこそそれらが無謀であることも学習したが)。

 私は、当然ながら、本門佛立宗の僧侶として、こうした一連の事件の背後に宗教的背景を見出していた。「文明の衝突」というつもりはない。どうしても単純化できない。しかし、イスラエルに渡航しながら、過去から現在に至る大きな歴史の流れの中の、カルマとしての憎悪の連鎖、そして近・現代に於ける中東にまつわる歴史、アメリカの政治を左右している宗教団体やユダヤロビーについても学ばせてもらった。

 そして、エルサレムの城壁の上で、気が遠くなるほど複雑に絡み合った糸をほどくためには、同じ時間がかかると考えた。つまり、3000年か、5000年か、と。ただ、私たちには御仏の教えがある。とにかく、真実の仏教が、一人一人の心を通じて広まってゆく必要がある、伝えていく必要がある、と確信した。それは、政治的な活動では叶うはずが無く、現在まで続く海外弘通と、それと連動した国内での佛立信心再発見、ご弘通ご奉公でなければ達成できないと思ってきた。とこで結びつくのかと思われる人もいると思うが、私の中ではつながっている。

 ワシントンからフィラデルフィアを経由してニューヨークへ。ひろし君と一緒に訪れたグランド・ゼロ。あの同時多発テロの起きた現場で、御題目をお唱えさせていただき、短い時間だったが御本尊をお掛けし、正装し、一座を勤めさせていただいた。ほんの、わずかな時間、しかし、私にとっては、深い、深い、重い、重い、大切な時間だった。あの時、様々なことを願い、そして誓った。あの日の夜、ニューヨークのホテルで泣いた。

 グランド・ゼロから近い教会に、犠牲者の遺族たちが捧げたモニュメントやメッセージを飾っている教会がある。私たちは、そこを訪れ、それらを目にした。突然の悲劇に、癒えない深い傷を背負ったご家族の悲鳴が伝わってきた。しかし、同時に、それらは、あの日以来続く悲劇の先にいる家族と同じ、癒えない傷である。

 自分の家族を想いながら、突如として愛する人と別れなければならない苦しみを想像した。無論、第二次世界大戦の東京や横浜等で行われたで大空襲や広島・長崎の原爆による犠牲者やそのご家族をも想い返す。妙深寺にも、多くの犠牲者のご家族がおられ、そのご回向も毎月させていただいている。

 しかし、この場所の出来事は、現在も進行している戦争の、ある起点であり、その戦争の一端を我が国も担い、未来に対する責任を負っていることを思い起こさなければならないのだと想う。

 文章がまとまらないが、明日は龍ノ口の御法難の日である。来年は立正安国論上奏750年。私たちが感じなければならないこと、やらなければならないことが、たくさんあると思う。もっともっと、私たちも行動しなければならないのではないか。自分のためだけに動いていると、結局は自分たちを追い込んでしまうことになる。他を想い、そして自分の出来ることを考えるべきだ。

 「Think Globally, Act locally」

 先生がブログで書いていた言葉を思い返していた。今日、いろいろな想いを抱いて、これからのご奉公のことを考えていた。

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