2025年6月5日木曜日

「言葉の力と私たちの未来」


「言葉の力と私たちの未来」


 人間とって「言葉」ほど大切なものはありません。私たちは日々言葉を使って生きています。話し、聞き、伝え、学び合う。「言葉」は頭と心に栄養を与えてくれます。


 体は口から入る食べ物によって作られ、心は耳から入る言葉によって形作られます。だからこそ、言葉は人間にとってこれ以上ないほど大切なもの。しかし、大切なものだからこそ、使い方を誤ると、非常に危険な刃にもなります。


 偽りを語り、偽りを聞く――


 こうしたことを続けてしまうと、心は曲がり、心は曇り、いつしか人生そのものを狂わせます。最ももったいないことは偽りの言葉に翻弄されて一生を送ることです。ただ一つの命、たった一度の人生を台無しにするのも「言葉」です。生産地の偽装や添加物の有無など、食品以上に気をつけなければならないのが「言葉」なのに、あまりに危険な状況だと感じています。


 最近、私は宗教家としてAIの進化と人間性について考え続けています。


 AI(人工知能)は数年でAGI(人工汎用知能)となり、その後さらにASI(人工超知能)へ進化を遂げると予想されています。


 ここまで来ると彼らはあらゆる面で人間よりも優れた能力を持ち、人間には不可能な問題にも解決策を見つけたり、それを実施させたりするようになると予想されます。そう遠くない未来、わずか数年後、世界は「技術的特異点(シンギュラティ)」を迎えることになります。これは自律的なAIが自己改善を繰り返して完全に人間を超越する予測不可能な分岐点のことです。


 まさに予測できない未来ですが、すでに人間はAIを前に「バグ(欠陥・誤作動)」を繰り返す粗悪品のような様相を呈していないでしょうか。私には世界の至るところで人間性の敗北が垣間見えるのです。


「情報リテラシー」


 情報を適切に活用できる能力のことです。情報の検索能力、取捨選択、入手した情報が正しいものか判断する能力、適切に解釈する能力、正しい情報を発信する力のことを指します。


 今や私たちは情報の洪水の中にいて、頼りない「情報リテラシー」を使って生きています。正しくて、自分の為になる「言葉」や「情報」が見つからず、ほとんど溺れかけているように感じます。


 この十数年、主に欧米からもたらされた文化、「ツイッター(X)」に代表される、ろくに考えもせず言葉を発する「つぶやき文化」や風潮、ライフスタイル、生き方ややり方が怒涛のように押し寄せて、全員が飲み込まれてしまいました。


 すべてが「ディール(取引)」のためのブラフやレトリックとされ、何が真実で真意なのか読めない、読ませないようにする世界。


 ポーカーでは「ブラフ」の活用が必須です。ブラフとは「虚勢」や「脅し」という意味で、形勢の逆転を狙って繰り出し、少しでも損失を減らし、敗北を避けるために使います。いつしかゲームだけではなく、全てがゲームになってしまったような世の中で、当たり前のように「ブラフ」が使われるようになってしまいました。


 不良は古い諺から「吐いた唾を呑むなよ」と凄みます。一度でも口にした言葉は取り消すな、取り消せない、取り消させないぞ、という意味です。日本には古くから「言霊」があり、言葉には不思議な力が宿るとする文化があります。日蓮聖人は孔子の「九思一言」を引用されました。思いついたことを全て言葉にしていたらトラブルしか起こりません。古来「口の中には斧がある」という教えもあり、言葉に責任を持つことは最低限の心得です。


 仏教には「十悪」という戒めがあります。これは「三業」が引き起こす特に悪い行為を十にまとめたもので、この中の四つが「言葉」に関するものです。


「妄語」とは「うそ」のことです。自分をよく見せる、誰かを陥れるため、自分自身をごまかすために、無意識のうちに口から出るウソ。


「両舌」は「二枚舌」のことです。Aにはこう言ってBにはこう言う。誤解を生じさせ、仲間割れを誘引する最低な言葉の使い方。


「悪口」は相手を傷つける言葉。慈悲のない正義感で人を侮辱する。悪口は口から出る毒。聞いた人にも「毒」を回す言葉。


「綺語」とは中身がなく飾りだけ、耳障りのいい言葉、本音を隠した上辺を取り繕う言葉。


 時代に流され、罪障に負けて、「妄語」「両舌」「悪口」「綺語」を使い分け、いつしかそれが当たり前のような人間になってしまえば、心は濁り、信頼は失われ、最後は御法にも見放されます。口の罪障の恐ろしさは口業正意だからこそ強烈に大きいのです。


 真実を語るようにすれば人生はずっとシンプルになります。言葉は人を繋ぐもので引き裂くものではありません。人を生かす言葉を大切に使いましょう。


 偽りを聞き、偽りに心を取られ、自ら偽りを語るようになったなら、心は曲がり、人間としての人生は台無しです、破滅に向かいます。そんな人生を望む人はいません。


 だからこそ、言葉を大切に使い、言葉を大切に使わせましょう。


 たった一言が、人生を変えます。良くも、悪くもするのです。


 人間が言葉を粗末にしていたら、AIにあらゆる地位を譲る未来が来ます。人間はエコひいきをし、変なものを信じ込んで、変なことを言い出して、ズルい、やらしい。政治家や役人、医者や先生、宗教家まで「AIの方がマシ」と言われる時代。彼らは中立、偏らず、不正もしない、しかも知識豊富で優しい。どうも、すぐそこにある未来のような気がします。


 言葉に責任を持つ。それこそが人間の尊厳を守る唯一の道です。「狂った象を恐れるより間違った情報を恐れよ」は仏陀の言葉です。


 開導聖人の御指南。

「講内信者どち不和になるの讒言、実しやかに聞ゆる両舌不合、己が遺恨をさしはさみたる悪口等は、この異体同心の城廊をうちくだく大砲なれば、城者として城を破るの大罪、口に弘通広宣をいえども、其悪義、講内不和当講破滅の因となり、獅子身中の虫獅子をくらふが如く、仏法は外道の破らず仏弟子の中より破るとの戒めもあり」


 異体同心も言葉から生まれます。言葉の罪障は心に直結しています。罪障消滅を祈りながら口で罪障を積まないように心がけましょう。


 今日もあなたの言葉に救われる誰かがいます。言葉は、人を救うためにあるのです。

0 件のコメント:

世界難民の日

今日、 6月20日は「世界難民の日(World Refugee Day)」。難民の保護と支援に対する世界的な関心を高め、故郷を追われた人々に想いを寄せるために制定されました。 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が中心となり、様々な団体に協力を求め、この日に合わせて建物をブルー...