世界的な押し花アーティスト・杉野宣雄氏。アメリカ最大の押し花コンテストで日本人初のグランプリを受賞、横浜で開催された初の個展には6日間で約5万人が来場して一大ブームとなるなど、国内外で活躍を続けています。
押し花アートは、自然の押し花の色や形を生かして、風景画や静物画、人物画、抽象画など、様々な絵画を描く「自然美の芸術」です。
杉野氏は、自然の美しい色のまま生花を押し花にする世界初の方法、草花の美しい色を損なわず、長期保存できる画期的な技術を開発、取得した特許数はおよそ50を超えます。
全国に3万人以上のインストラクターを育成し、世界各国の押し花作家と交流する、まさに伝統ある押し花の世界に革命をもたらし、その分野を牽引しているアーティストです。
京都佛立ミュージアム「杉野宣雄 押し花アート展 2026」
本展では、杉野氏のこれまでの押し花人生を象徴する代表作を中心に構成するとともに、特別展示として「祈り ― 仏教とスリランカ」をご紹介いたします。
杉野氏は語ります。
「古来より人は植物と共に暮らし、その恵みによって命をつなぎ、文化を育んできました。動物もまた同じ地球に生きる仲間として、互いに影響し合いながら共存共栄してきました。食料、住まい、薬、酸素、そして心を癒やす美しさ──私たちの周りを見渡せば、植物への感謝の思いに満ちあふれていることに気づきます。
私の押し花アートは、天然の色彩を長く保つ独自の技法により、植物本来の美しさと命の輝きをそのまま留めることを目指しています。それは、出会った花や季節の記憶、大切な人との思い出と共に、生き続ける art(アート)です。
創作に向き合うとき、私は常に「植物への感謝」を心に置き、植物の魅力を自分の感性でより深く、より美しく表現することを大切にしています。」
2025年8月、杉野氏は還暦を前に、スリランカを訪れました。激変する世界の中で、氏は「心」にこそ想いを馳せるべきと考え、たどり着いた答えが人びとの「祈り」であったというのです。
「インド洋の真珠」と呼ばれるスリランカ。温厚な国民性と美しいビーチが際立ちます。国民の約7割は仏教徒で「世界最古の仏教国」とされます。このスリランカに、人によって植えられた記録の残る世界最古の「木」が現存しています。紀元前3世紀、インドから移植された菩提樹、ブッダがその木の下で悟りを開いた「ジャヤ・スリー・マハ菩提樹(Jaya Sri Maha Bodhi)」。インドの菩提樹は焼失や枯死(こし)を繰り返しましたが、スリランカの人びとはこの聖なる菩提樹を二千年以上守り続けてきたのです。現在のインド・ブッダガヤの菩提樹はスリランカから分木を里帰りさせたものです。
杉野氏は、世界で最も尊敬と信仰を集めてきた植物、この菩提樹に向かい、その葉一枚一枚に、時空を超えた人びとの「祈り」を見出しました。
この時、不思議な出会いがありました。聖なる菩提樹の近く、アヌラーダプラ総合病院を訪問し、難病・サラセミアの患者を慰問することとなりました。この病気の方々は30才前後までしか生きることが出来ません。本人も家族も苦しい状況に置かれています。担当医に杉野氏を紹介すると、なんと「実は子どもたちに押し花を教えてきた」と言ったのです。医師や看護師は訪問に歓喜し、患者が作った作品を杉野氏の前に広げました。まさか死に直面する子どもたちが押し花をしていたとは。
杉野氏は心打たれました。
「この子どもたちと一緒に、祈りの象徴をつくりたい。」
こうしてサラセミアの子どもとともに新しい作品が生まれました。それが菩提樹をモチーフに制作された「菩提法刻」です。
押し花がつなぐ命、未来、そして希望。押し花が紡ぐ「祈り」と「平和」への想い。
2027年には横浜で国際園芸博覧会が開催されます。人びとが植物や自然に想いを寄せるこの機会に、植物を愛し、その命の輝きを伝える杉野氏の作品やメッセージが届くことを願っています。
仏教では、山や川、木々や草花の中にまで仏性が宿っていると説きます。諸経の王と言われる「法華経」も原典は「サッダルマ・プンダリーカ・スートラ(白い蓮の華のように最も勝れた正しい教え)」、自然界にある植物に寄せて真理を説いています。
「杉野宣雄 押し花アート展 2026」
無常のはずの草花が、命を与えられ、歓喜する声が聞こえます。作品の多くが、私たちの命をあたたかく包みます。
生きている奇跡、その喜び、草花の命の輝きと、祈ることの大切さを感じていただければ幸いです。
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