映像を見ても新しい情報はない。国家間の極めて重要な政治問題であることだけが際立つ。これを見て驚いたり、過剰に反応するのも愚かしい。
それよりも、国家の舵取りを執り行う政府や実行する機関の内部に、その方針に従わない人々がいることこそ恐ろしい。これでは、勝てない。民主党中心の政権だろうと、自民党中心の政権だろうと、これは、本当に恐ろしいことだ。
流出させた本人は「中国に勝つために左翼政権を倒す」とか「赤い仙石内閣は亡国の徒だ」と、義のあるクーデターのつもりかもしれない。真相は分からない。いずれにしても、日本の国家としての体制が崩れているようだ。
「凡なる一将は、非凡なる二将に優る」
ナポレオンはそう言ったという。民主主義国が独裁国や一党支配の国家と向き合う時、こうした言葉が思い浮かぶ。「民主主義には時間と金がかかる」と言うが、独裁国は違う。
明らかに稚拙で愚かで強引な国に対して、賢い議論をしているようで結局は足の引っ張り合いばかりしている国が勝てるわけがない。双方が非凡でも。難しい。悩ましい。
ビデオ映像の流出を歓迎する民放局。むしろ反乱を煽る新聞。出演者のコメントも滑稽。
漁船か、工作員か、過激派か、酔っぱらいか。それらが行う暴挙に対して、簡単に世論が左右に振れる国家など、挑発的な国やテロリストにとっては格好の標的だ。第一次世界大戦も一人の青年のテロによって始まってしまったのだから。
「武」とは「戈(ほこ)」を「止(とど)める」と書く。武器を駆使し、武力を行使することが目的化しては意味がない。
こうしたことを心に刻んで、日本独自の安全保障について議論を深め、法改正、法整備、国民的なコンセンサスを、醸成していくべきだと思う。
もう、これは古すぎる話だが、日本の対外政策の岐路にあった明治初頭を思い返してみるのもいい。福沢諭吉は日清戦争を推進したが、坂本龍馬の師・勝海舟は一貫して反対の立場を表明していた。氷川清話に以下のような有名な言葉がある。
「日清戦争はおれは大反対だったよ。なぜかって、兄弟喧嘩だもの犬も食わないじゃないか。たとへ日本が勝ってもどーなる。支那はやはりスフィンクスとして外国の奴らが分らぬに限る。支那の実力がわかったら最後、欧米からドシドシ押しかけてくる。つまり欧米人が分らないうちに、日本は支那と組んで商業なり工業なり鉄道なりやるに限るよ。
いったい支那五億の民衆は日本にとって最大の顧客さ。また支那は昔時から日本の師ではないか。それで東洋の事は東洋だけでやるに限るよ。
おれは維新前から日清韓三国合従の策を主張して、支那朝鮮の海軍は日本で引受くる事を計画したものさ。」
さらに、勝海舟は当時の首相・伊藤博文に「日清戦争は大義のない戦争でロシアとイギリスを利するだけだ」と批判の漢詩を送りつけ、「一回勝ったぐらいでうぬぼれるな」「日本が逆運に会うのも相当遠くはない」と警告した。
もちろん、日本は勝の言った路線とは全く違う道を歩んだ。今となってはこの言葉も虚しい。しかし、こうした考え方があったことは知っておくべきだ。明治初期の選択と誤謬。
「三国で欧米に対する」「顧客」「師」という極めてフラットな考え方に、全く違う日本やアジアが生まれていたのではないかと思う。
現実世界では、日本は勝を仇敵のように批判した福沢諭吉が主張した道を歩んだ。「脱亜(アジアから抜け出して)」「入欧(列強諸国と肩を並べる)」を目指した日本は、いつしか西欧諸国と同じ帝国主義に傾倒し、権益と安全を奪取する植民地政策を推進することになった。
いろは丸の衝突事件のように、万国の公法や世界中の人々の良心に訴え、万機公論に約して、虎視眈々と権益の奪取を狙う国々を諌めるべきではないか。もちろん、戈を止めるための備えも怠れないが。
とにかく、APECの行われる横浜。安全で、有意義な会合となりますように。
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