「坂本龍馬の宗教政策」
中外日報 『随想随筆』 2018.2.2
- 仏教による平和国家望む -
坂本龍馬率いる海援隊には三部の出版物があった。『閑愁録』『和英通韻以呂波便覧』『藩論』である。
『藩論』は龍馬の政見論をまとめたものと言われ、万民平等、天皇絶対主義の否定、民(町民・農民)が参加する議会制民主主義の理念を高らかに謳っていた。当時の駐日英国公使パークスはこれに感嘆し、翻訳して本国の外務大臣に送った。日本では同志社大学の住谷悦治元総長や長崎国際大学の関家新助名誉教授の研究によってようやく日の目を見た。
『和英通韻以呂波便覧』は国際化を推進する海援隊が再刊した外国語の入門書であった。こうして海援隊は出版事業を進めていたが、実は『藩論』には著者名はなく、後者は「土佐海援隊蔵板」とあるものの龍馬が暗殺された後の出版だ。
『閑愁録』だけは龍馬存命中の慶応三年五月の出版で冒頭に「海援隊」と大書されている。しかし、これまで注目されることはなかった。この本が龍馬の文官・長岡謙吉の名で出版されていることや、何よりその内容が後世の世情や世論と合わなかったためである。
明治維新には復古神道主義者による宗教クーデターという側面があった。明治初期の「神仏分離」「廃仏毀釈」「浦上四番崩れ」は神道国教化を目指す新政府の宗教政策を示している。明治維新は未だ研究の対象であり称讃の対象ではない。
『閑愁録』には海援隊の宗教政策が述べられている。彼らは仏教による平和国家の樹立を望んでいた。
「独リ仏法ハ無辺之鳥獣草木二到ルマテ済度スベシ、何ゾ況ンヤ有縁之衆生二於テヲヤ」
「仏法ハ天竺ノ仏法トノミ言ベカラズ及皇国ノ仏法ナリ」
とは『閑愁録』の主張である。「仏教」を「外来の宗教」とした偏狭な復古主義者に対して痛烈な一言を浴びせている。時の権力者や狂信的原理主義者がこれを看過するとは思えない。龍馬暗殺の原因にこうした宗教対立があったとさえ思える。
「仏日之滅没ハ皇道之衰運二係ル。是実二誰ガ罪ゾヤ。是実二誰ガ罪ゾヤ。此二卑見ヲ録シテ謹テ明識高徳ノ指示ヲ待ツ。希クハ天下万霊ノ為二慈悲ノ法教ヲ垂レヨ。」『閑愁録』文末
今年は明治維新一五〇年。京都佛立ミュージアムでは「維新外伝~日本のアナザーストーリーズ」を開催し、原典を展示している。
仏教者として坂本龍馬や海援隊の問いに応えたい。
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