アッシジは、チベットのポタラ宮を思わせるような岩山にそびえ立つ大聖堂。ここは、聖フランチェスコの生まれた街。彼はシエナのカタリナと共に、イタリアの守護聖人になっている。
アッシジや聖フランチェスコを知らない人でも、アメリカの「サンフランシスコ」という都市の名前は知っているだろう。名曲「慕情」の舞台にもなっているアメリカ西海岸の「サンフランシスコ」もブラジルの「サンフランシスコ川」も、彼の名前にちなんでいる。マザー・テレサも彼の生涯を知って修道女になることを決めたといわれるし、それほどキリスト教世界、カトリックでは有名なのが、このアッシジ出身の聖フランチェスコだ。
キリスト者ではない仏教徒の私から「フランチェスコ」を見ると、彼は所謂それまでの「カトリック」を否定し、カトリックの教義に大転換を迫った存在であったと思う。厳格な教義の解釈よりも霊的な啓示によって多くを感じ指導する「密教的」な側面を強く持ち、人々の生活から乖離した教会とキリスト教を復興させようとした。当時のカトリック教会は保守的で、多くの信仰復活運動を弾圧したが、ローマは当時からアッシジのフランチェスコ派を利用して再生を目指していくことになった。
それにしても、キリスト教の教会、特にアッシジはおっそろしい教会だった。もう、その教会の内部は表現しかねるほど重たい空気だった。フランチェスコの遺体は今でも教会の下部に埋葬された棺の中にある。その棺は階段を下りて来た者は見ることが出来る。私たちの団体では数人の女性の気分が悪くなり、教会内部に入ることは出来なかった。本当に恐ろしいほど重たい空気だった。
聖堂の内部にはジョットによるフランチェスコの生涯を描いたフレスコ画がある。1997年9月26日に発生したウンブリア・マルケ地震でフレスコ画と丸天井が崩落して大事故となり、数名が死亡した。それだけでも恐ろしい。「世界の衝撃映像」などのテレビ番組で、この丸天井崩落の衝撃的な映像を見た方もいると思う。現在は、極めて精力的な修復工事によってほぼ元通りになった。
重たい空気の教会内部とは裏腹に、6月のアッシジの空は澄み渡っていた。教会の中を柔らかい光が包んでいて、鳩が日だまりの中を歩いていた。田口くんは、この場所でもたくさんのデッサンを描いてくれていた。
全く上手に描いてくれている。穏やかな田園地帯の空気まで表現してくれているように思う。ありがたい。天才や。
実は、私だけこのアッシジに庭を見て、一人だけ思うところがあった。2002年1月24日、バチカンのヨハネ・パウロ二世の呼びかけで「世界宗教者による平和の祈りの集い」が、このアッシジで開催された。聖堂前の庭にはその時の植樹が残されていた。
私は、この「世界宗教者による平和の祈りの集い」のニュース映像を見て、一人イスラエルに行くことを決意した。平和に対する願いがあるのは分かる。人類の希求するところだ。誰もが平和を望み、戦争や紛争を嫌う。しかし、戦争や紛争は後を絶たない。だから、異なる宗教が対話を重ねていくことは大切だと思う。しかし、あの時、ニューヨークでの同時多発テロ、アフガン侵攻、イラク戦争の流れの中で、アッシジに集う聖職者たちを見ていて、何故か強い嫌悪を覚えたのだ。「呑気なもんだ」と思えて仕方がなかった。
同じ聖書をルーツとしているユダヤ教、キリスト教、イスラム教と全く異なる視点を「仏教」が提示しなければならない。単純に、「手を取り合いましょう」ではなく、真実の仏教・本門佛立宗の私たちは、それを提示する使命がある、そう思っていた。そして、聖書を手にエルサレムに行き、ユダヤ・キリスト・イスラムの聖地を訪ねながら、仏教の使命に思いを馳せた。
アッシジのフランチェスコが評価されるのは、「キリスト教」という枠を飛び越えた普遍性を持っていたからだと言われている。つまり、そこが「キリスト教を越えた」「キリスト教を変革させた」と言われる所以である。そう考えれば考えるほど、仏教の「普遍性」を彼らに提示したいと思う。彼らが飛び越えたくて飛び越えられなかった壁を、キリスト教というドグマを外すことによって得られる法華経の普遍的な世界を提示したいと思ったのだった。
2009年、海外弘通は新たな局面を迎えるだろう。
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