2020年5月6日水曜日

「ミツバチと人間」 妙深寺報 令和2年5月号 巻頭言








「ミツバチと人間」 妙深寺報 令和2年5月号 巻頭言


 9年前の東日本大震災と原子力発電所の事故。制御不能となった原子力建屋が次々と爆発するのを見て、この世の終わりを感じたのは私だけではなかったはずです。「ゴミ袋で換気扇をふさぎなさい」という報道もあり、実際そうした記憶もあります。


 あの時は放射能、今は新型コロナウイルス。執筆時点で全世界の感染者数は358万人、回復者は116万人、亡くなられた方々は25万人以上。実際の数値はこの約十倍と言われています(ドイツ研究チーム)。


 マスクをつけて、距離を開けて。必死に守ってきたつもりでしたが、緊急事態措置の延長はあまりにも深刻な影響を社会全体に与えます。「心が折れた」という声も聞こえ、「ステイ・ホーム」や「スマート・ライフ」など耳ざわりのいい言葉だけで乗り越えられるでしょうか。


 私たちの社会は、明らかに存亡の危機を迎えています。


 NHK特集『メガ・クライシス巨大危機』では発生が予想される大災害について放送してきました。異常気象による激甚災害や首都圏を襲う巨大地震、3回目の放送は『ウイルス 大感染時代 忍び寄るパンデミック』 でした。


「人類が現在直面する最大の脅威はウイルス感染症です。」


 番組の中で紹介された研究者の言葉です。この番組が放送されたのは2017年の1月14日のことです。今回も「想定外」という言い訳が通用するとは思いません。


 対策が後手に回っているだけではなく、初動が遅れたのは東京五輪が関係していないでしょうか。志村けんさんが亡くなられたのは3月29日。すでに1ヵ月以上も前のことです。対策の効果は不透明で、検査数の少なさは専門家すら本当の理由が分からないと述べています。他国に出来て日本はしない、出来ない。不安や不満が募るのも分かります。


 横浜市では斎場の混雑が続いています。自宅で亡くなられた方がPCR検査もされなかったと聞き、実態が分からないまま「ステイ・ホーム」を続ける怖さがあります。


 とにかく、あらゆる面で真価が問われ、抱えてきた問題や先送りされてきた課題が露呈しています。


 気持ちの沈むことばかりですが、地道な努力を重ねて、再開の時を想像し、準備しましょう。今しか出来ないことがあります。この時間を有効活用しましょう。


 モチベーションを下げないためには、御宝前に具体的なご祈願を立て、できれば紙に書いてお供えし、たっぷりとお看経をさせていただくことです。まずこれで変な考えに陥らない。前向きになれる。闇の中に光、絶望も希望に変わります。そうして、想像力をたくましく、未来への希望を描きましょう。


 想像してみましょう。今よりもしあわせな自分を、家族のことを。今より素晴らしい社会のあり方を。みんなで想像してみましょう。


 放射性物質にしても新型コロナウイルスにしても、やはり人間が試されているのです。人間の問題、人類に出された宿題です。


 なぜなら、人間以外の動植物は相変わらず穏やかに、それぞれの営みを続けています。むしろ、世界中のいたるところで、空気は澄み、鳥たちも、魚たちも、虫たちも、今まで以上に生き生きと躍動して暮らしているというのです。


 現在の経済活動の停止と直接的な関係はないといいますが、北極で発生していた史上最大のオゾンホールが消滅したとのこと。南極のオゾンホールも観測史上最小までになったというのです。


 人間が治せなかった地球の病を地球自身が治しているのかもしれません。因果の道理、天地自然の理は、妙不可思議なものだと痛感いたします。


 想像力をたくましくしてコロナの後の世界を考えてみたいです。「アフター・コロナ」「ポスト・コロナ」について、想像してみましょう。


 私たちはもっと謙虚に、もっと自然と共存し、経済最優先ではなく、それ以上に大切なものを意識して、社会を作り直さなければならないと思います。持続不可能な成長や発展には意味がないばかりか罪ですらあることを共有しなければなりません。


「人間様」「万物の霊長」と言いながら「人間」がいなくなって人間以外の全員が喜ぶなんてドラマに出てくる悪代官です。


「人間がいなくなったら悲しんでくれるかな?」「他の動植物は困るかな?」と想像してみてください。無茶苦茶なことばかりしているのでほとんど困ることはないようです。


 一方、小さな昆虫「ミツバチ」がいなくなると世界中の作物の3分の1が採れなくなるそうです。食物だけではなく綿花にも影響が出るので着るものにも困ることになります。


 2006年、ヨーロッパでミツバチがいなくなるという大事件が起こりました。原因は病原菌や農薬、遺伝子組み換え作物などが想定されましたが、中でもネオニコチノイド系の農薬が影響したと考えられています。これは人間への毒性が弱い一方で、ミツバチが触れるとごく少量でも方向感覚を失ってしまうのだそうです。大事件、大問題です。


 そう、このミツバチと、私たち人間のことを重ねて想像してみてください。


 地球からミツバチがいなくなると悪い影響がたくさん出て、他の生き物が困ってしまう。でも人間がいなくなるとマイナスどころかいいことばかりだなんて、本当に残念なことです。悲しいことです。人間の横暴は分かっていたつもりでしたが、あらためて考え、思い知りました。


 動物保護や環境保護活動もありますが、ほとんどは人間のせいで傷ついたのだから何とも言えません。


 1年間で最も人間を殺している生き物は「蚊」だそうです。蚊はマラリアや黄熱病、フィラリアやデング熱を媒介します。人間にとって最も忌むべき存在と言えるでしょう。しかし、実は人間を吸血する蚊はごく一部で、自然界から蚊がいなくなると水の浄化に支障をきたすといいます。バクテリアよりもボウフラの浄化能力は高く、汚い排水溝の水も浄化します。さらに蚊はミツバチと同じように花粉の媒介もするのだそうです。


 万物の霊長ですが、何かボウフラや蚊にまで負けてしまった気分になります。


 だからこそ、人間は人間を追求すべきだと思います。追求しなければならないのです。


 人間とは何なのか。人間だけが鬼にもなれば菩薩にもなり、仏にもなれる。時間や空間の不思議、宇宙や生命の神秘にも近づくことができる。これは、人間以外の生物にはできないことです。


 人間の可能性と愚かさを知らなければなりません。


 み仏は人間の中に十の世界があると説きました。地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上、声聞、縁覚、菩薩、仏。実に見事な解析であり、事実、真実だと思います。


 人間が欲望を優先して生きるならば、菩薩や仏どころか動物以下の存在となってしまいます。他の動物を苦しめまくり、自然を壊しまくる人間の行き着く先は真っ暗闇の監獄となるでしょう。


 他の生物と比べてこれほど特別な人間です。このことをよく考えてみてください。きっと私たち人間はこの世界に修行に来ているのです。それしか考えられません。


 どちらの道を選ぶか試されています。人間は宿題を与えられてこの世界に生まれてきました。宿題を忘れたまま帰ることは出来ません。宿題をやり残したまま自分の好きなことだけしているわけにはいかないのです。


 人間のプロになる。これを説くのが真実の仏教です。


 今回は人間が目覚める時です。修行しましょう。

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