下記にご紹介したい。
「和を以て貴しとなす」の真意
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■「和を以て貴しとなす」というのは、日本人に最も広く知られた言葉の一つだろう。
「とにかくカドを立てないで仲良くするのが一番大切」といった意味で理解している人が多いだろう。
その出典が聖徳太子の「憲法十七条」であることもよく知られているはずだ。
「憲法十七条」は『日本書紀』に載せられているため、『書紀』の史料批判の観点から学界では偽作説も出されている。
だが、個別の語句や表現に後の潤色が加わっていたにしても、基本的な内容は当時のものとして見てよいというのが歴史学界の大勢の意見だ。
■この言葉は「憲法十七条」の第1条の冒頭に出てくる。『書紀』の訓(よ)み方を記した最古の写本である岩崎本の『書紀』(平安時代中期の書写)ではこの個所を−
「和(やわら)ぐを以(も)て貴しとし…」と訓んでいる。
そのあとは「忤(さか)ふることを無きを宗(むね)とせよ。…」と続く。
第1条全体の主旨は、この言葉を知っている多くの日本人が抱いているイメージとはやや違っている。
人はえてして派閥や党派などを作りやすい。そうなると偏った、かたくなな見方にこだわって、他と対立を深める結果になる。そのことを戒めているのだ。
それを避けて、人々が互いに和らぎ睦まじく話し合いができれば、そこで得た合意は、おのづから道理にかない、何でも成しとげられる−というのだ。
ただ「仲良く」ということではなく、道理を正しく見出すために党派、派閥的なこだわりを捨てよ、と教えているのだ。
■これは、じつは最後の条文、第17条と対応している。第17条の内容は次の通り。
「重大なことがらはひとりで決定してはならない。必ず多くの人々とともに議論すべきである。…(重大なことがらは)多くの人々と共に論じ、是非を検討してゆくならば、その結論は道理にかなうものになろう」
このように重大事の決定に独断を避け、人々と議論するにしても、各人が党派や派閥的な見方にこだわっていては、対立が深まるばかりで道理は到達できない。
したがって重大事の決定にあたり、公正な議論で道理にかなった結論を導く前提として第1条があるのだ。
★ここで注意すべきは、第1条も第17条も、討論や議論の効用を最大限に高く評価しているということだ。
これは逆に言えば、議論をウヤムヤにして表面上の一致のみを求めるいわゆる「空気の支配」や同調圧力に対しては、最も批判的な立場が示されているのだ。
「和を以て尊しとなす」という言葉は、これまで自由闊達な議論を封じ、長いものに巻かれろ式の「空気の支配」を強化する脅し文句に使われる傾向があった。
だが、それは聖徳太子の真意とは全く逆のものだ。
聖徳太子は、道理にかなった結論を得るためには、公正な議論が不可欠と考えていた。
それは、どんな卓れた人物であっても、完全無欠ということはあり得ないと洞察していたからだ。
■そのことは第10条を見れば明らかだ。
「人が自分の意見と違うからといって、怒ってはならない。人にはみな心があり、心があればそれぞれ正しいと思う考えがある。…自分は聖人ではなく、相手が愚人でもない。共に凡人なのである。それゆえ相手が怒ったら、省みて自分の過失を恐れよ。…」
人は他人と意見がくい違うと、えてして自分は「聖人」で相手は「愚人」のように思いがちだ。
だが、聖徳太子は「共に凡人にすぎない」と喝破されている。冷静に考えると確かにその通りのはずだ。
この世に完全無欠な人間などどこにもいない。それなのに、自分だけが完全無欠であると思い込んでいるとしたら、それはよほどの思い上がった錯覚と言うべきだろう。
このような透徹した人間観を基礎として、聖徳太子は公正な議論が不可欠であるとし、公正な議論のために党派、派閥的なこだわりやかたくなさを排すべしとされたのだった。
■では、そうした派閥的なこだわりを捨てるにはどうすればよいのか。また公正な議論によって道理にかなう結論を得るには何のためか。これについては答えが第15条にある。
「私(わたくし)の利益に背いて公(公共利益)のために尽くすのが臣下たる者の勤めだ。およそ人に私心があれば必ず自他に恨みの感情が生まれる。恨みがあれば心からの協調ができない。協調ができなければ結局、私的な事情で公務の遂行を妨げることになる。…」
つまり公共の利益こそその目的ということになる。
そして派閥的なこだわりを捨てるためには、まず私心を去る必要があるというのだ。
■結論
完全無欠にほど遠い人間が公共の利益を実現するためには、派閥的なこだわりを捨てた公正な議論が欠かせず、そのためには各自が私心を去らねばならない。
これこそ聖徳太子が唱えた「和を以て貴しとなす」の真意だった。現代の我々も謙虚に耳を傾けるべき貴重な教訓ではあるまいか。
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【参考】
十七条の憲法
http://www.geocities.jp/tetchan_99_99/international/17_kenpou.htm
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