2月の始まり。
それは、後藤さんの殺害映像の公開という、あまりにも惨い、やるせない感情と共に始まりました。
その殺害映像は、人間の為せる業とは到底思えないほど残忍極まりないもので、見る者の心に深い傷を残すものです。
危険な戦場に赴き、後藤さんが伝えてきたのは戦場で傷つく女性や子どもたちの姿。
現代、戦争が、その攻撃が、リアリティを失っていると言われます。
地上部隊を撤退させ、空爆や遠隔地や無人機からのピンポイント攻撃が主となる戦争は、底なしの恐ろしさを秘めているように思います。
画面の中で照準を合わせ、画面の中で人が逃げ、画面の中で人の生死が決定する、バーチャルな戦争。
本当は、そこに圧倒的な現実と、人びとの生死があるのに。
残念ながら、平和は戦争からしか学べないと、何度も何度も言われています。
平和の中にいると、戦争の愚かさを忘れてしまいます。
しかも、その戦争がバーチャルで、戦時宣伝映画のような情報戦略のヴェールに包まれていたら、人類の理想も、平和の理念も、平衡感覚すら失ってしまいます。
戦争の愚かさ、恐ろしさが、当事者すら分からなくなる罠。
戦場に赴き、危険を覚悟して、その現実を伝えてくださるジャーナリストの方々。
正義と正義がぶつかり合う、戦争という暴力の中で、ありのままの厳しい現実を、伝えてくださる、ジャーナリストの方々。
後藤さんは、戦地に飛び込み、リアリティを失った戦争の、真実の姿を、克明に伝えてくださっていた方のお一人。
戦地で苦しむ、女性や子どもたちの姿を通じて。
しかも、人質として囚われている方の救出のため、生後3週間の我が子を残してトルコからシリアへ向かったと伝えられています。
後藤さんの最後の姿は、逃げようのない圧倒的な現実、目を背けることもできない戦争の無慈悲さ、恐ろしさ、悲惨さ、狂気、凶悪性、血、死を、私たちに突きつけていました。
後藤さんは敬虔なクリスチャンであられたとのこと。ただただ、その勇気と行動に敬意を抱くほかありません。
ご家族の心中を思うとやりきれませんが、奥さまから出されたコメントを読ませていただき、その覚悟や使命感を共有されていたのだと思い、一層の敬意を抱きました。
「イラクやソマリア、シリアのような紛争地帯で人々の苦境を報じた夫をとても誇らしく思います」
「特に子供の目線で、普通の人々への影響に光を当て、戦争の悲惨さを私たちに伝えることに情熱を注ぎました」
暴力に、暴力で対抗することは時に必要不可避であるとはいえ、「イスラム国」と称するこの狂った集団を生み出したのは一方的だった欧米の中東政策によります。
誰よりも、暴力によって家族を殺され、復讐を誓う人たちを見てきたのは、戦場ジャーナリストの後藤さんだったと思います。
後藤さんは、暴力の連鎖の愚かさ、戦争の悲惨さを、何度も書かれていました。
その死によってさらなる暴力の連鎖が始まることなど、後藤さんにとっても最も不本意であると感じます。
後藤さんの死の衝撃。
哀しみ。
いろいろな意見もあると思いますが、私は今だからこそ、日本国憲法の前文を、読み返しています。
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」
後藤さんのご冥福をお祈りし、同時にその平和への希いが受け継がれることを祈念して止みません。
2 件のコメント:
《人間の歴史はじまって以来、
世界中どこの国もやったことのないこと、
やれなかったことを、
いま、日本はやってのけている。
日本国憲法第九条。
日本国民は・・・
武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、
永久にこれを放棄する。
なんという、すがすがしさだろう。
ぼくは、じぶんの国が、
こんなすばらしい憲法をもっていることを、
誇りにしている。
あんなものは、押しつけられたものだ、
画(え)にかいた餅だ、単なる理想だ、という人がいる。
だれが草案を作ったって、
よければ、それでいいではないか。
理想なら、全力をあげて、
これを形にしようではないか。
全世界に向って、武器を捨てよう、と
いうことができるのは、日本だけである。
日本は、それをいう権利がある。
日本には、それをいわなければならぬ義務がある。》
——花森安治「武器を捨てよう」から
初出『暮しの手帖』1世紀97号(1968)
花森安治著『一戔五厘の旗』所収(読売文学賞受賞作品)
ありがとうございます。
夜明けの写真と、チュリップが、とても綺麗です。
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