2021年6月5日土曜日

『バトンを渡すその日まで』妙深寺報6月号 住職巻頭言





























 人間の一生はとても短く、実際真正面から「無常」と向き合えば悲観的になるばかりです。


 苦しみの根源は生老病死にあり、この強烈な現実と事実からは逃れられません。逃れたと思っても、気を逸らしたり、紛らわしているだけで、自分が滅すること、自分の愛するものも滅することを真剣に考えれば逃げ出したくなるほど恐ろしくもなり、悲しくなるはずです。それが真っ当な心持ちです。


 永遠に続くものはない、最愛の人ともいつか別離が訪れる、別れを告げなければならない日が来る。このどこにも逃げ道のない現実があるからこそ、御仏の教えがあり、ご信心があります。


 先住は常々「人生は中継ぎだ」と仰せでした。先発のように思いますが、実はみんなバトンを受け取り、誰かにバトンを渡してゆく。バトンを大切に握りしめ、バトンを次の者に託してゆくのが人生と。


 御仏の教えは地球人類の宝物であり、宝の中でも最たる宝物です。鬼にも修羅にもなる人間を人間として自覚させ、菩薩に昇華させる教えなのです。


 世にある「宗教」とは悉く人間が作り出したものです。自然への畏敬の念、恐怖心、希望や願望が生み出した宗教。民族統一や統率の為に生み出された宗教。これら人間が作り出した宗教と、「自覚の宗教」と呼ばれる仏教とは本質的に異なります。さらに仏教の中でも権威主義化して男女差を開いた上座部仏教や大衆化、密教化して種々の神仏を生み、呪術までするようになった宗旨とも異なります。


 人間の作り出した宗教は「謗法」と呼ばれる偏った教えです。謗法は、人間を迷わせ、人生を狂わせ、社会を混乱、後退させるものです。人間が作り出した宗教が宗教であるならば、宗教など無くていいということになります。


「正法興隆、世界平和確立の御願」


 常々ご宝前にご祈願させていただいています。正しい仏法が世界の隅々まで行き届き、正法が人の心の柱となり、世界に平和が訪れますように。

「謗法」ではなく「正法」による、「人立宗」ではなく「佛立宗」による「立正安国」の祈りとご奉公。裏を返せば正法が興隆しなければ世界に平和が訪れることなど夢のまた夢ということです。ですから、続けて「世界各国においてご弘通発展なさしめ給え」と言上させていただいています。


 国内外を問わず、尊いバトンを受け止めて、自分に出来るご奉公を精一杯させていただいて、次の方に少しでも良い体勢でバトンが渡せように努めることが大切です。生きている間のご奉公です。限られた時間しかありません。何一つ通用しないのが生死の壁。体裁や口実は何の意味もありません。


 今月の六月十四日、先住松風院日爽上人の祥月ご命日を迎えます。ご遷化から二十一年が過ぎました。


 初代日博上人も、先住日爽上人も、法寿六十二歳のご遷化まで功徳を積みに積まれて生き切られました。振り返れば勿体ないほど、素晴らしい体勢で、尊いバトンを渡していただいたように思います。


 果たして、二十一年が過ぎて、私たちはどんな体勢で次の世代にバトンを渡せるでしょう。高齢化、少子化、新型コロナウイルスなど、堂々と言い訳を並べ、人を減らし、建物は老朽化し、浄財も枯渇して次代に渡すなら、それはバトンを投げ捨てているのと同様で、最も恥ずべきことです。


 妙深寺門末教講一同、来年六月の先住の御二十三回忌まで残すところあと一年。お教化と法灯相続の御礼を何としても先住の御霊前にお供えしようではありませんか。それこそ私たち世代に与えられた甲斐あるご奉公であり、最高最良の功徳行に違いありません。


 是非とも躍起になりましょう。目標を立てて、誓いにまで高めて、励まし合って、ご奉公させていただきましょう。


 先日、来日して仕事をしているネパールのジット君が開門参詣し、御本尊のご奉安を願い出ました。


 その際、奥さまが志篤く、心を込めて御本尊をお迎えし、ご挨拶くださったと清康師と清行師から報告がありました。同時に彼女も発心して御本尊をいただきたいと申し出、自らお数珠を選んで護持、さらに尊い浄財を奉納されました。外国から働きに来ている彼女にとっては大変高額で、その志の篤さに驚き、心から随喜しました。


「大変な御利益をいただいているからできるのです。」


 本当に生きた仏教、佛立信心のお手本のようなお話です。


 先週、ネパール別院では清地師がコレガオン家から御本尊ご奉安のお願いがあり、ご奉公しました。


 何度かご紹介しましたが、アジタ・タパちゃんは歩けない、喋れない、食事も介助なしでは食べれない、果てしなく寝ている女の子でした。しかし、清康師と小泉博氏、溝口航平君がご奉公に行った際、彼女の深刻な状況から御本尊をご奉安されたのです。


 すると御本尊をいただいてから目に見えて、生まれ変わったように元気になりました。歩く、笑う、食べる。今ではとても利発な女の子になっているのです。


 その姿を見て、この一族の長であるラメッシュ・タパ氏が御本尊のご奉安を願い出たのでした。


 清地師が奉安のご奉公に伺うとアジタ・タパちゃんもお祖母さんと一緒に来て、お会いしました。あれほど絶望していたお祖母さんは大変感激をしていて、「皆さんによろしくお伝えください!」とのことだったそうです。


 本当にありがたいです。佛立の教科書に載るようなご奉公、現証の御利益、まさにお教化やご弘通のお手本です。


御教歌

御利益を見てこそ信はおこるなれ

   ものしりくらべ何の益なし


まのあたり御利益うけし人を見て

  そしりしものも口をすくめぬ


 スリランカからもステキな写真が届きました。良潤師とケネカちゃんの愛娘リョウちゃんが三歳の誕生日を迎えました。新型コロナウイルスの影響で華やかにお祝いすることは出来ませんでしたが、別院のご宝前で御礼したそうです。かわいいです。本当に。


 二十一年間のご奉公で、新しい縁から菩薩の卵が生まれ、ご弘通の器が育って参りました。


 日本中、世界中、命あるかぎり、みんなで力を合わせて、笑顔で、楽しく、夢をもってご奉公に励みましょう。


 きっと世界はよりよく変わってゆきます。変えてゆきましょう。

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