「天空の城・ラピュタ」という宮崎駿さんの映画は、印象深く、いつまでも忘れられない名作だ。
その、まさに「天空の城」がスリランカの世界遺産、「聖地・アヌラダープラ」にあり、昨年の2月に大きなセッションを行うために私たちはその場所を訪れた。福岡御導師、私と、この聖地に記念の植樹をさせていただき、御導師の御唱導の下で大法要を営んだ。その模様はテレビ局によってスリランカ全土に放映され、大変な反響を呼んだ。夕方から夕闇へ、巨大なダゴバ(塔・ストゥーパ)に茂る木々や修復工事用の鉄柵を大きな猿たちが飛び回り、さらに幻想的な雰囲気を醸し出していた。こういう雰囲気を見てしまうから、スリランカへのご奉公はワクワクする。
スリランカという国に対する知識が少ない方もいるので、もう一度書いておきたい。スリランカは、世界地図で見るとインド大陸の右下に浮かぶ、涙の形をした島である。この島には紀元前から文明が栄えていた。もちろん、インド大陸の影響を色濃く受けて栄えた文明で、特に仏教成立後はその受け皿として、インドで仏教が衰亡していった後もスリランカは時間を止めたかのように仏教文化を内包して残してきたといわれている。
そのスリランカの中北部に位置するアヌラダープラは、スリランカの遺跡を代表する一つ。ここが最初にスリランカの首都になったのは紀元前380年。その後、何度か遷都が行われたが、結局すぐにアヌラダープラに戻され、ほぼ1000年間に渡ってスリランカの首都であったという。
ゴータマ・シッダッタ(ブッダ)が覚りを開いた菩提樹から、挿し木によって育てられた二代目の菩提樹が、現在も健康な状態で生きている(と伝えられている。極めて信憑性が高い)。この木は記録が残っている世界最古の木であるとされる。福岡御導師と共に私たちはこの「Sri Maha Bodhi」 と呼ばれる木に触れさせてもらった。そして、その葉までいただいたのだが、なかなか感激する。
スリランカに仏教が伝えられたのは紀元前247年。当時、仏教を伝えた僧はアヌラダープラから北東に17キロメートル離れたミヒンタレ(Mihintale)の丘に暮らしたという。
アヌラダープラには人工の湖または池が散在している。一つの湖の側で、本門佛立宗のご信者さんがコテージというかホテル&レストランを経営している。そこでもお助行させていただいた。海外設備がこれほど整うということは、ローマと比しても非常に興味深い。人工の湖、そして水路、である。
湖は農業用や生活用の水として使われた。インドで農業による自然の破壊が進んだ後にスリランカは開発されたためか、インドでの教訓を受けて自然との調和が考えられているという。アヌラダープラが首都であった時期の紀元前に、スリランカの多くの自然地域が保護区として指定され、現代まで引き継がれている。その自然保護区での人間の活動は許されない。仏教は自然と人間の調和を目指した。
アヌラダープラは、仏教伝来時の首都であったため仏教文化の遺跡が数多く残されている。巨大なダゴバ(ストゥーパ)が散在し、それらはスリランカでは一般的な「半球状(お椀を逆さまにしたような形)」の構造になっていて、石や煉瓦で積み重ねられている。
最大のストゥーパは、紀元前1世紀に作られたという「アヤバギリ・ダゴバ(Abhayagiri Dagoba)」で、現在でも75メートルの高さがあるが、建築当時はその周囲に半球状の屋根を含む構造があり高さは100メートルあったと言われる。それが、ここに掲載した写真のダゴバである。周囲には5000人の僧が生活した僧院があった。
実は、このダゴバは大乗仏教の総本山であった。このダゴバを建設したワッタガーミニ・アバヤ王は、タミル軍にアヌラダープラを追われて、14年もの流浪生活を余儀なくされた。何とか復権した王が建設したダゴバ、スリランカで最も大きなストゥーパがこれなのである。
しかし、不幸なことに12世紀には、このダゴバを中心とする大乗仏教の僧侶集団と、マハー・ヴィハーラ寺院を中心としたテーラワーダ仏教(上座部仏教)派の争いが起こり、当時の王であったパラークラマ・バーフ1世は大乗仏教派を弾圧して仏教界を統一した。この時、500名の大乗仏教の僧侶が殺害されたという。そして、この廃墟となった「アヤバギリ・ダゴバ(Abhayagiri Dagoba)」と同様に、大乗仏教もスリランカから姿を消すこととなった。
いま、スリランカは内紛を抱えている。その内紛の「カルマ」を、こうした仏教内の不幸な歴史を清算することによって転じようという希望がある。そうした願いから、福岡御導師に「アヤバギリ・ダゴバ(Abhayagiri Dagoba)」の前でのセッション開催が要請され、ここで盛大に法要を営んだのであった。
考えてみると、世界の仏教史にもインパクトを与える事実である。スリランカが大乗仏教の国であったということ。しかも、漠然とした「大乗仏教」ではなく、あるいは「上座部仏教」との対立軸としてある「大乗仏教」ではなく、「二乗作仏」というあらゆる仏教を統合する「ブッダの真意」を説き明かされた「法華経」が、すでに当時のスリランカに伝わっており、それらが発掘されているということにも、HBSのスリランカ信徒たちは興奮している。
今後、もっともっと研究してゆけば、仏教史の中に於けるスリランカの役割、意義、そして今スリランカで弘まっている法華経の教え、上行菩薩所伝の御題目という「意味」が明らかになると思う。
前回は「天空の城・ラピュタ」、今回は仏歯寺でのセッションを行う予定である。ブッダの時代から冷凍保存されたような幻想的な寺院の中で、御題目をお唱えできることは大変光栄で意義のあることだと思う。
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