2021年1月4日月曜日

「原点に立ち返る」 長松清潤








「原点に立ち返る」 長松清潤

    令和3年1月

    『妙深寺報』巻頭言


「こちらから見たらこう見える」「そういう見方もないことはない」などと、解釈の仕方で変わるものではなく、誰が、どのように見ても分かる妙不可思議な出来事を「現証の御利益」と申します。


 令和2年12月、私たちは局長の身体を通してお助行の力、尊い御題目の功徳、「現証の御利益」を目の当たりにし、ご信心の凄さを実感させていただきました。中途半端な御利益観は白紙に戻され、再び佛立信心の真髄に触れました。


 誰がどう見ても御利益と分かる出来事は、必ず逃げ道のない状態に追い込まれてから始まります。


 妙深寺の第十二代事務局長 柴山迪昭氏の新型コロナウイルスへの感染、その容態の重篤化は、凡夫の頭では理解できず、ご宝前にお縋りして御題目をお唱えするほか残された道はない絶体絶命の状況でした。あり得ない出来事に全ての教講が愕然としたのです。


 理由を考えている時間はない。御法さまにお縋りするしかない。思い返せば、平成五年四月三日に発生した先住のお怪我の時と同じ状況でした。なぜ?どうして?と考えても訳が分からず、ひたすら御題目をお唱えするしかなかったのです。


 先住は現証の御利益、「佛立魂」を顕して戻ってきてくださいました。あの出来事がなければ今の妙深寺はなく、私もおりません。解釈は御利益によってのみ可能なのです。


 大切なことは、苦しみや悲しみをバネにしてご宝前に向かうこと。祈って祈りの叶わぬことはない。必死のお看経がなければ御利益は顕れません。三類の強敵の勝手な解釈に耳を貸す暇もありません。


 日蓮聖人は如説修行抄の結びに、

「大苦に遭っている私たちを見て、悦んで笑う者がいても気にするな、昨日は人の上、今日は身の上です、日蓮をはじめ弟子や信徒は無常を自覚し、寂光参拝した暁、現証の御利益が顕れることによって苦楽が転ずることを忘れてはならない」

と言明されておられます。妙深寺の原点はここにあるのです。


「我等何計り無慚と思はんずらん。汝等何計り羨しく思はんずらん。一期をすぐる事程なし。何に強敵かさなるとも、努努退く心なく、恐るる心なかれ。」


 12月3日、柴山局長の容態が急変し、長男 克久氏と長女 路子さんは担当医から「回復の見込みなし」と告げられてしまいました。


 この日から妙深寺は寺院をあげて終日のお助行を開始し、6日からは先住のお助行以来、24時間体制でのお助行が始まりました。


 未知の病、新型コロナウイルスの恐ろしさ。容態の急変、面会の不可、葬儀の不可。糖尿や腎臓の疾患を持たれていた局長の状態は絶望的なものでしたが、ご宝前にお縋りするより他の選択肢はなく、全身全霊のお助行が続きました。


 一日一日、薄氷の上を歩くかのような2週間。ひたすら御題目をお唱えし続けました。このような絶体絶命の状況の中、御法さまはどのような結果を顕されるのか、誰にも分からなかったのです。


 12月19日午後5時48分、克久さんから電話を受けました。6分前の5時42分、柴山局長が息を引き取ったとのことでした。全身の力が抜け、呆然としました。しかし、直後に克久さんは、「いま、病院です。」と言いました。臨終の瞬間に、なぜ彼が病院にいるのか、私には全く理解できませんでした。


 克久さんはそのまま「実は今朝担当医から連絡があり、話があるということで仕事を終えて病院に駆けつけたのです。説明を聞いた後、路子と私、LINEで繋いだ韓国の睦子が見守る中で、ほんの数分の間に、血圧が下がっていき、父はそのまま亡くなったのです。」と話されました。私は電話を握りしめ、声をあげて泣きました。


 面会もできないはずのコロナ禍。臨終の時刻は誰にも選べません。医師も読めなかったその時を局長は見事に顕してくださいました。雲の上から糸を垂らして地上の針の穴に通すような確率の出来事。悲しみと有難さ。局長は「佛立魂」を再び見せてくださったのです。


「臨終の時にあらはす寂光は 信者のつねの行にあるなり」


 臨終の時、局長は見事に寂光を、現証の御利益を見せてくださった。コロナ禍の葬儀は無慈悲、寂しい、と聞いていましたが、いつも以上に温かいお見送りができました。すべてが御法さまのお導きでした。妙不可思議の極み、超絶、絶後の現証の御利益でした。


「きはまりて かなしき時にあらざれば まことの信はおこらざりけり」


 順調な時は自分の問題に気づけない。思いがけない出来事に頭を抱え、病気やトラブルに悩んだ時、はじめて今までの自分を省みたり、改めようと誓い、軌道修正をし、大事な生き方に目覚めるのです。諦めてはいけない。逃げてもダメ。苦しみにも意味がある。一人では無理でも、お助行をいただいて、一緒にご宝前に向かいましょう。必ず現証の御利益が顕れます。


 柴山局長とのお別れはこれ以上ないほど辛く、悲しいことでした。しかし、局長は命がけで佛立信心の核心、妙深寺の原点、「佛立魂」を教えてくださったのです。これほど劇的で歴史に残る帰寂はありません。凡夫の迷いを打ち破る、妙不可思議な現証の御利益です。未来永劫語り継いでゆきましょう。


 引き続き古森𤄃氏の大動脈解離。局長のお助行を忘れないよう復習させていただいたものと感得しています。予断は許されませんが、手術成功の知らせに本堂が歓声に揺れ、拍手と涙でいっぱいになりました。生きたお寺の証明です。


 世界はすでに戦争と同じような状況を迎えています。教講ともに誰が死地に赴くか分かりません。生活の糧を奪われる方も続出すると思われます。油断できません。


 私たちは大混乱の前に信を堅めさせていただいたのです。何より心の柱がしっかりしていれば暴風にも耐えられます。お助行の大事を知れば支え合うことも出来ます。そのための試練だったのです。


 死なない人も病気にならない人もいませんが、全てにタイミングがあり、意味も見えます。偶然はないし全て必然です。意味を受け止め励むことが大事なのです。


 一日に一万遍、二万遍、三万遍と唱え重ねた御題目。誰もが妙の妙たる理由を感得したと思います。


「だいもくは千遍よりは万遍と 唱へかさねて妙をしる也」


 今年は原点に立ち返る年です。原点とは御題目口唱、お助行から顕れる現証の御利益です。世界がどれだけ混乱しても、唱え重ねて信心を堅め、家族を守りましょう。

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