2009年6月17日水曜日

せめて、行いを修める

 心には、刹那に、いろいろな思いが湧き起こる。開導聖人は、「一日に八億四千万の念慮起こる」と御指南されている。実に、人間が人間として、人と人との間で生きている以上は、人に接し、情報に接している中で、いろいろな念慮、思いが起こってくるものだ。
 「業(カルマ)」には、「身」「口」「意」という三つが大きく挙げられ、この三つで、自分が幸せにも、不幸にもなると教えていただく。自分が三つの業をつくり、三つの業の報いを受ける。
 真の仏教徒は、いわゆる運命論者ではない。運命とは、天が気まぐれにもたらすものではなくて、過去からの流れ、特に自分自身が主人公となって作ってきた業の結果。お祖師さまは「過去の因を知らんと欲せば其の現在の果を見よ。未来の果を知らんと欲せば其の現在の因を見よ 」と御妙判なされている。つまりは、今は過去に原因があり、未来の結果は現在に原因がある。いま、どうするかだ、ということか。
 その三業の中で、「意(心)」は刹那刹那に、いろいろなことが湧き起こる。凡夫丸出し、三毒(貪欲・瞋恚・愚癡)という「毒」に冒されているのだから、心に湧き起こることは止めどもない。なんともならん。せめて、「身」「口」の「アクション」を、なんとかしようではないか、ということになる。良いアクションを重ねて、悪い原因になるようなアクションは止めようではないか、ということになるはずだ。
 そもそも、「御題目を信じています」というご信者となっても、法華経にあるように「信者であって信者でなし」という落とし穴がある。「十四誹謗」がそれで、お祖師さまは厳しく、出家にも、在家にも、お戒め委なられている。
 お祖師さまは、「悪の因に十四あり、一に慢、二に懈怠、三に計我、四に浅識、五に著欲、六に不解、七に不信、八に顰蹙、九に疑惑、十に誹謗、十一に軽善、十二に憎善、十三に嫉善、十四に恨善なり。此の十四誹謗は在家出家に至るべし」と松野殿御返事にお認めになられた。一つ一つを解説していると大変だが、慢心したり、怠けたり、自分勝手な考え方で教えを判断したり、浅い知識に執着したり、欲望にとらわれたまま、教えを分かろうとしない、正法を信じない、顔をしかめて非難する、疑い迷う、謗る。善を行っている者を、軽蔑し、馬鹿にし、憎み、妬み、恨み、和を乱す。
 この十四条のうち、一の「驕慢」から十の「誹謗」までは、主にご信者さんではない人の「謗法」を指し、十一の「軽善」から最後の「恨善」までの四つは、出家・在家共に信心している者に当たる「謗法」となる。つまり、「善を行っている者を、軽蔑し、馬鹿にし、憎み、妬み、恨み、和を乱す」というところが、御法に出会った者が自ら戒めておかなければならないことなのだ。
 重ねて、お祖師さまは「譬喩品の十四誹謗も不信を以って体と為せり」とお諭しであるから、結局「信じてない」ということが、十四にもわたる「謗法」を冒し、功徳や果報をいただけなくしてしまうのだと教えてくださっている。「信心」は素直正直が一番で、そこから外れたら、落とし穴がたくさんあるように思う。
 つらつら、そう考えていて、せめて、人間は、心は三毒に冒されているからいろいろと巡り巡って、妄想のようなことまで思い浮かぶにしても、「身」と「口」を戒めて、そこに至らないようにすべきだと思う。
 正直でいる人は無敵だ。嘘つきは全部がウソだと思ってしまう。嘘つきが不幸になるのは、他人を信じられなくなることにあると思う。「自分のようにウソをついているはず」と思ってしまうのだろう。おそろしい。ただ、自分が、正直であれば、誤解されても、何を言われても、恐れることはない。
 仏教には、「口」の罪障として、「妄語(もうご)」「綺語(きご)」「悪口(あっく)「両舌(りょうぜつ)」という、口で作ってしまう悪い業が示されている。「妄語」とはウソをつくこと、「綺語」とは言葉を飾って真実を覆い隠すこと、「両舌」とは、あっちでこう言い、こっちでこう言うというように、二枚舌で人を仲たがいさせること。最後の「悪口」は、日常生活の中で陥りやすい人間の悪癖で、罪の意識も薄い。陰口は美味だ。それを言ってないと収まらない、面白くない、酒のつまみには必ずこれを肴にするという人もある。悪口と陰口が自己を肯定し、正統なことを言っていると思い込む。どんな信仰をしていようと、それは「十悪」の中で戒められていることなのに。
 「この世で一番難しいことは自分自身を知ることで、最もたやすいことは人の悪口を言うことだ」
 ドイツの諺らしいが、的を得ている。人間、思いはいろいろと起こる。しかし、せめて、行いは修めたい。特に、「身」と「口」に気をつけて。「行いを修める」と書いて「修行」というのだから。
 正直であれ。

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