2011年9月8日木曜日

イスラエル渡航記 「嘆きの壁」

イスラエル渡航記 「嘆きの壁」
(妙深寺報 平成17年1月号より)

 アザーンという礼拝への呼びかけが聞こえてきました。アル・アクサー寺院の高い塔に据え付けられた拡声器から、祈る時間を教え、ムハンマドを讃える内容の歌が聞こえてきます。

 私は「糞門(ふんもん)」から嘆きの壁に向かいました。嘆きの壁は、寺院と隣接しており、壁一枚で隔てられているだけです。大声のアザーンにユダヤ人たちは全く興味を示さずに嘆きの壁を目指します。

 私が歩いている整備されたこの道は、1967年の第三次中東戦争(6日間戦争)にユダヤ人のものとなり、整備が進められた場所です。今でも空港と同じ金属探知器が入り口に設置されており、嘆きの壁の広場に続いています。

 1967年6月5日、イスラエル軍は「聖地奪還」作戦を実行しました。6月6日深夜2時頃イスラエル軍がエルサレムを奇襲降下、ヨルダン軍の主要防御基地を攻略し、ヨルダン軍の守備隊の主力は、遂に旧市街から撤退しました。

 6月7日朝8時半頃、イスラエル軍第71大隊が、砲兵と空軍支援のもと聖ステファン門(通称ライオン門)から侵入。10時、イスラエル軍は東エルサレムを占領しました。この時は、第一次、第二次の時のようなおぞましい殺戮(さつりく)が繰り返される本格的な戦闘はほとんど起きず、イスラエルの圧倒的な勝利に終わりました。

 ナルキス将軍はジープでライオン門から入り、無線でグル大佐に所在地を尋ねたといいます。グル大佐は無線で「神殿の丘はわれわれのものだ。繰り返す。神殿の丘はわれわれのものだ」と答えました。最後のエルサレム争奪戦は、1948年以来近寄れなかった若い兵士たちの泣き声で終わりを告げました。

 外国特派員のロバート・ムーゼルは、

「そこでは、埃まみれの屈強なイスラエル兵たちが、幼子のように涙を流して泣いていた」

と伝えています。ナルキス将軍も、

「こらえていた泣き声は、むせび泣きに変わりやがて抑えていた感情が爆発して号泣するのを聞いた」

と述べています。多くの兵士たちは、家族の健康を祈願した紙切れを巨石の隙間に差し込みました。この行いは今でも続いています。

 それ以前、「嘆きの壁」は、マグレブ・クォーターと呼ばれるアラブ人が数百人ほど住む住宅街の中の狭い通りにありました。東エルサレムを奪取した3日後の6月11日、イスラエル工兵隊が周辺の住宅の建物の爆破を行い、2日間のブルドーザーによる作業で、嘆きの壁の前に広場を作ってしまいました。結局、旧市街のユダヤ地区に住んでいたパレスチナ人難民(西エルサレムを追われた人々)も追い出し、ここで完全なユダヤ化を実行したのです。ヨルダン川西岸、ガザ地区、エルサレムなどを追い出されたパレスチナ人らは、PLOなどの非合法武装集団の兵士に転じていきました。

 この神殿の丘、嘆きの壁を巡る紛争は書くことさえ恐ろしい程の血で血を洗うような殺戮の連続です。兵士の涙に象徴されるように、各民族が熱情をもって信仰する場所だからです。その感情は日本人の想像を絶するものです。

 ユダヤ人少年、アブラハム・ミズラヒがサッカーをしていて蹴ったボールがアラブ人の家の庭に入り、取りに行ったところを襲われ、殺された事件。ユダヤ側のテロは映画館やカフェやレストランで行われ、ポーランドから移住したばかりのアリエ・ポランスキーという警察官も犠牲になった。このようなことは延々と切り替えされてきて、そしてイスラエルが圧倒的な勝利で嘆きの壁に辿り着くまで続いたのです。

 エルサレム・ポストは、

「昨日、ブルドーザーが最後の家屋を押し倒した。瓦礫の中から、旧市街をめぐる戦闘の間にこの地域から逃げた人たちが置き去りにしたベッドや寝具類、家具や台所用品、食糧品や靴などが発見された。今週の終わり頃にはこの地域へ入ることを許されることになる一般の人たちは、一世紀以上にわたってこの場所にひしめいていたスラム街の建物が跡形もなくなっているのに気づくだろう。いまや壁の前には大きな広場が出来ており、訪問者は糞門から入って通路を右に曲がると、堂々とそびえる壁が目に入るはずだ」

と報じています。

 余りにも重たい歴史の石畳を、民族と宗教が巻き起こしていく紛争の道を、ゆっくりと歩いて壁に到着しました。兵士たちがライフルを置いて談笑しています。まだ工事が続けられています。巨大な壁は仏教徒の私ですら思わず息を飲むほどの巨大な遺構でした。

 私は帽子をかぶって柵の中に入りました。さらに、壁に向かって左側にある横穴に入り、撮影をさせていただきました。そこでは、真っ黒い装束に身を包み、何度も何度も頭を前後させながら大声で祈る人たちがいました。歴史の重みとユダヤ人の宗教の本質を見た場所でした。

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