班長さんへの手紙 (平成25年8「役中テキスト」)
ありがとうございます。
この秋、京都佛立ミュージアムでは「宮沢賢治と法華経展 雨ニモマケズとデクノボー」という企画展を開催しようと考えています。
このために何度か岩手県花巻市を訪れ、賢治の弟・清六氏のお孫さんや宮沢賢治記念館の館長さまにお会いし、ご協力をいただけることになりました。本当に、有難いことです。
学校の教科書には必ず登場する宮沢賢治。詩人や童話作家としての才能は誰もが認めるところです。しかし、その創作活動の目的はただ一つ。法華経の精神を、世界中の人に、特に、未来を担う思春期の少年たちに伝えることでした。彼自身は、その作品群を「法華文学」と書き遺しています。
今こそ、法華経の精神が人々に必要です。最初は自分のための信仰でもいい。しかし、そこで体験した妙不可思議の現証の御利益を起点として、世のため、人のために生きる、菩薩を目指す。
宮沢賢治の生き様を通して、このシンプルなプロセスを、忘れないように確認したいと思うのです。
何度か御法門させていただいてきましたが、賢治の手帳に書かれていた「雨ニモマケズ」で始まる文章は、法華経の不軽菩薩を表した、賢治が目指した人間像でした。
今年、妙深寺では基本信行の実践を掲げています。お看経、お給仕、お参詣、お助行、ご奉公などを、コツコツと重ねてゆくご信心を目指しています。特に、班長さんが班内を回りながらお助行してゆく「巡回助行」は、まさに今でも「雨ニモマケズ」の精神を実践しているのが、佛立信者であることを示すものだと思います。
=雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ=
=東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ=
菩薩の誓いをしたご信者方が、あちらへ、こちらへと、お助行に歩く姿と重なります。
宮沢賢治記念館には未完の大作『銀河鉄道の夜』の原稿が展示されています。原稿用紙の表や裏に書かれた原稿に感動します。この物語は、主人公のジョバンニが死者の世界を旅するものです。
物語の後半に、次のような会話があります。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」
「うん。僕だってそうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニは云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
「僕たちしっかりやろうねえ。」ジョバンニが胸いっぱい新しい力が湧くようにふうと息をしながら云いました。-----。
胸が熱くなる、賢治の想いです。
賢治のお父さんは仏教の勉強会を主催するくらい熱心な門徒でした。賢治もその薫陶を受けていましたが、苦しむ農家の人々をそのままに、有名なお坊さんを呼び、裕福な人が自分のためにする信仰の姿に、強い違和感を覚えていました。そんな時に、賢治は法華経に出会い、泥だらけの菩薩たちが繰り広げる生き様に魅了されました。
生まれ変わり、死に変わりしてゆく生命の輪の中で、ご信心に出会い、日々に菩薩行を実践する身の上ほど有難いことはありません。
八月もかけがえのないご奉公をしましょう。
2013年8月2日金曜日
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