『住職就任式を控えて(同時多発テロ事件によせて)』 平成13(2001)年10月
ブッシュ米国大統領は「21世紀最初の戦争」とも「新しい時代の新しいタイプの戦争」とも述べておりました。
ほんの一瞬で数千人の命を奪った同時多発テロ事件は、ブラウン管を通じて私たちの脳裏に永遠に刻まれることになりました。
家族を失った人や同僚を失った人、恋人を失った人の悲しむ姿に、涙が溢れる思いが致しました。
多くの報道番組でも語られていたようにこの事件の根底には、「宗教」「民族」という要素が含まれています。
元大統領顧問、アルビン・トフラー氏は、その近著の中でこの21世紀が「宗教の時代」であることを示唆しておりました。
しかし、残念ながら21世紀における「宗教」「信仰」の役割は、人の心の支えとなり、人生やその魂を救うよりも、出口の見えない、終わりなき戦争の原因を作るのみになろうとしております。
ニューズウィーク誌は、50年後の世界宗教の信徒推移について表を掲載して予測を立てています。
その推移表には、キリスト・イスラム教が信徒数を伸ばし、仏教のみが減少傾向にあると述べられておりました。
これは、非常に残念なことであり、混沌とした21世紀に於いて最も憂慮すべきことであると考えます。
住職就任式を目前に控え、世界で起きた様々な事件を通じ、私は一層宗教の時代と言われる21世紀にこそ必要であるのが「仏教」であり、しかも御仏の真実の教えを表す法華経本門の正しいご信心であると確信いたします。
私たちは、いずれの人の人生にも「信仰」が不可欠であると、何度も何度もお話をしております。
しかしながら、正しい教えでなければ、逆に憎しみを増長させたり、人を傷つけることになり、一生を犠牲にしてしまうことにもなります。
寺報で何度も取り上げてきたイスラエルの紛争やユダヤ教とイスラム教の教えが、この恐ろしいテロ事件の根底に関連していることが明らかになろうとしています。
イスラムやキリスト教、ユダヤ教を信じる人の全てが「悪い」と断定するつもりはありませんが、やはりその宗教の系譜の中で重要な位置にあるバイブル「旧約聖書」に非常に恐ろしいDNAが隠されていることが気になるのです。
この旧約聖書で説かれている中に「選民思想(神に選ばれた民が絶対正義であり、それ以外は絶対悪、もしくは従うべき民)」と、「戦争容認」の思想が隠されています。
これは、旧約聖書の冒頭「ヨシュア記」に詳しく見てとることが出来ます。
モーゼから引き継ぎ、イスラエルの民の王となったヨシュアに、神は「あなた達に約束した土地を奪還しなさい。私を信ずればそれは叶う」と命じ、そして戦争の方法を手引きし、ヨシュアはラッパを吹き鳴らしながら戦争を開始するのです。
ヨルダン川を渡りつつ、村々を焼き払い、女性や子供までをも殺戮しながら、約束の土地を奪還することに成功します。
そして、ヨシュアが神に報告をすると、何と神は「よくやった」とヨシュアの行い全てを誉めるのです。
このように、「旧約聖書」には恐ろしい原理主義たるべき原点、極端な思想を生み出すべきDNAが隠されていると感じるのであります。
その一節。
「主はヨシュアに言われた。『彼らの故に恐れてはならない。あすの今ごろ、わたしは彼らを皆イスラエルに渡して、ことごとく殺させるであろう』」(ヨシュア記第十一章)。
この思想や教えは、現在のイスラエルの国歌にも反映されていますし、イスラムのコーランの根底にも、「ゴッド・ブレス・アメリカ」を至る所に張って国威掲揚するキリスト教主義にも流れてしまっています。
お互いが「神」から選ばれ、認められている「民」であり、その為には戦争も辞さないという「宗教」「教え」が、私たちの住む21世紀という時代に大きな黒い影を落とすことは間違いない事実であります。
報復をいくら続けても、報復に次ぐ報復で根本的な解決は為さないと考えられます。
ブッダの説かれた教えの前には、肌の色も年齢も、出身地や貧富の差もありません。
これは宗教戦争の歴史が無い唯一の宗教と云われている仏教ならではの教えです。
ブッダは、その御一生の中で、既に戦争に巻き込まれ、カースト(身分差別制度)と戦い、この無限の宇宙の中で生きる人間に対して、自然や動物を含めた真理、尊い教えを説かれ続けたのです。
私たちは、この宇宙が無限に大きくそして無限に小さく、また無数の質量と性質を持った物質でさまざまに構成され、しかも固定せずに大原理の上に載って多様に動いていることを知っています。
その大原理こそが御題目であり、「南無妙法蓮華経」という「大法則」であることをお祖師さまからお伝え頂きました。
勿論、私たちも宇宙の無限の広がりの中で生まれ、星のかけらによって構成されながら、かけがえのない「生命」と「魂」を授かって生きていることをお教え頂いているのであります。
ブッダの説かれた宇宙の「大原理」と、その中で生きる人間の「平等」と「可能性」は普遍のものであり、広く知られて然るべきです。
この教えを世界中の人に伝え広めていくことが、一天四海皆帰妙法という私たちの務めでありそして目標でもあり、その成就の先にあり、そして今でも願うのが「世界平和」である筈です。
法華経に「願わくは此の功徳を以て普く一切に及ぼし、我等と衆生と皆共に佛道を成ぜん」とあります。
佛立の掲げる世界平和とは、一言で云うならご弘通であり、御仏の、お祖師さまの正しい教えを一人でも多くの人々に伝えてゆくことです。
私は、住職就任式に当たり、その使命を自覚し、日博上人、日爽上人の法脈を頂き、身に迫る重責を感じつつ佛立教務の本領を発揮せんと、敢えて経力に任せて信心に住して、妙深寺教講と共にご弘通に邁進し、当山興隆、宗門繁栄に微力を捧げ奉らん事を願うものであります。
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