すべての人が、程度の差こそあれ、漠然とでも本当の人間になりたいと望んでいる。ただし、気をつけなければいけないのは、その解決法の中には人を欺くものもあると言うことだ。たしかに軍服を着せることによって、人々に生気を取り戻させることができるだろう。皆、戦争賛歌を歌い、戦友とパンを分かち合うに違いない。一つの目的を仲間と共有する喜びを味わって、探しものを見つけ出した気にもなるだろう。だが、結局、人々はパンを与えられる代わりに命を奪われるのだ。
砂漠と化してしまった世界の中で、僕らは仲間を見つけたいと言う渇きに似た欲望に苛まれていた。戦友と分かち合うパンの味に惹かれて、戦争の価値を認めるようになったのもそのためだ。だが、じつは、同じ目的に向かって走るレースに参加し、触れ合う肩の温かみを感じるのに、戦争は必要ない。僕らは戦争にたぶらかされている。憎しみと言う感情が付け加わったところで、レースの興奮がわずかなりとも増すわけではない。
どうして僕らが憎しみあったりするだろう。僕らはこの世界に対して連帯して責任を負っているのだ。僕らは皆、同じ惑星によって運ばれていく仲間であり、同じ船の乗組員なのだ。さまざまな文明がぶつかりあいながら新たな統合を目指すのはいいが、互いにむさぼりあうのはごめんだ。
「人間の大地」サン=テグジュペリ
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