2015年1月1日木曜日

『狂気的情熱』 妙深寺報 平成27年1月号 巻頭言

 どう見てもプラス要因が見当たらないのに何とも奇妙な安堵感が漂っています。絶望しているわけではないけれど、かといって希望もない。そんな先の見えない社会心理が広がっているように思うのです。

 文明論からすれば「衰亡論」が議論されている社会は健全であり、まだ再生や再興する可能性があります。一方、人びとが本当に衰退を意識し始めると衰亡論は語られなくなるというのです。

 ギボンの『ローマ帝国衰亡史』からポール・ケネディ『大国の興亡』に至るまで、衰亡論も衰亡論批判も、未だ社会や組織が活力を残している時に取り上げられるもので、本当の衰退期や危機には話題に上らなくなります。

 残年ながら、今の日本社会にも、様々な組織にも、そうした奇妙な安堵感や平静、無関心や無気力な心理が広がっていると思います。

 いわゆる国の借金は1千兆円を超えました。増加の一途を辿る社会保障費を補うために増税しかないと言われますが、それよりも先に構造改革や行財政改革、身を切る改革が必要のはずです。

 数年前に話題となった年金施設(被保険者、年金受給者等のための保養施設)の売却問題は、責任の所在も曖昧なまま本質的な改革も行われませんでした。総額1兆1000億円を投じた施設の売却収入は約2000億円で、簡単に計算しても約9000億円の損失ですが、もう誰も話題にしません。

 巨額の借金を子どもや孫世代に押しつけることは決定的なのです。

 ズルイ大人たち。

 ひどい大人たち。

 エリート層とそうではない階層にはっきりと分かれた日本。何度か硬直した「システム」そのものを変えるチャンスもありましたが、期待の分だけ国民の失望は大きく、何もかも諦めてしまったようです。

 年末の衆議院選挙は与党が圧勝しましたが、投票率は52.66%、都道府県別でもすべてで60%を割り込み戦後最低を更新しました。与野党の是非ではなく、これほどまでに国家が重要な岐路を迎えている時ですから、大多数が無関心のままでいいわけがありません。

 暗黒の時代が始まったという人もいます。格差は拡大してゆく、システムは自浄作用を失い、国の借金も増えてゆく。

 しかし、もしそうだとしても、誰のせいにすることも出来ません。とにかく、一人ひとりが諦めずに関心を持って取り組んでゆくしかありません。

 お祖師さま(日蓮聖人)は次のようにお諭しです。

「佛法(ぶっぽう)は体のごとし、世間はかげ(影)のごとし。体曲れば影なゝめなり」

 世間の混沌も、私たちのご信心改良のエネルギーにすべきです。

 この時代、この空気、この風潮。

 何が回答か、正解かも分からない。他人はもちろん、専門家すら頼りにならない。どんぐりの背比べ、周囲の目を気にして何も出来ない、火の粉をかぶらないように前に出ることを嫌い、それでも勝とうと後出しジャンケンに腐心するような世の中。悪世末法の流れもあり、そのままでは悪い結果をゆっくりと待つようなものです。

 だからこそ心の中に「情熱」を探してもらいたい。情熱を傾けて何事かに取り組んでもらいたい。何かをしているなら、冷めたままするのは止めよう。何かを与えられているのであれば、狂気的情熱を傾けてやってみせよう。

 本来、お祖師さまの教えとは、そういうものです。これこそ本門佛立宗が受け継ぐ流儀です。

 私たちは数多くのお祖師さまのお書き物の中で特に「如説修行抄(にょせつしゅぎょうしょう)」「四信五品抄(ししんごほんしょう)」「観心本尊抄(かんじんほんぞんしょう)」を、「三部の如説抄」と定めて最重要の御書としています。実は、この順序にも意味があり、三つの中では最初の「如説修行抄」を第一に大切な教えとしていただかなければなりません。

 「如説」とは「み仏の説の如く修行いたします」との意味です。末法で修行する者たちの覚悟と実践を説かれたものです。

 開導聖人の御指南。

「長松門家の人々に申置候事。(もうしおきそうろうこと)
如説修行抄の奥書(おくがき)に、
『此書(このしょ)御身(おんみ)をはなたず常(つね)に御覧(ごらん)あるべく候(そうろう)』とあそばしたるだにあるを、当宗の僧侶(そうりょ)皆(みな)台家(たいけ=天台宗)を好みて三大部(さんだいぶ)を読み習(なら)ひ、末法時機相応(まっぽうじきそうおう)の宗祖(しゅうそ)の御抄(ごしょう)を仮名字(かなじ=簡単なもの)なもの也と心で軽んじ、如説抄(にょせつしょう)を拝(おが)むものなし。唯(ただ)清風の一類(いちるい)、佛立講の信徒のみ、真実の思ひ定さだめたる御弟子旦那也といふことを深く喜び奉るべき也。真実の二字。思定の二字」

 妙講一座にも掲載されている『如説修行抄』ですが、その内容とは本化上行菩薩後身・高祖日蓮大菩薩の燃えたぎるようなご弘通ご奉公の情熱が記されています。

 逃げない。

 迷わない。

 孤独でも負けはしない。

 混沌としている。しかし、私たちは思いを定める。

 妬まれたり、怨まれたりしても、それも力に変えて前に突き進む。

 人の意見ではなく、み仏の教えに従い、説かれたとおりに修行する。

 三類の強敵、修行する者を小馬鹿にする一般の人、習い損じた僧侶、人びとの尊敬を得ながら惑わす者から、どれだけ誹謗(ひぼう)中傷されても、耐えてみせる。今生で結果が見えなくても、命あるかぎり御題目をお唱えして、寂光参拝を果たす。これほど嬉しいことはない。

 周囲からしたらおかしく見えるかもしれません。変わり者に映るかもしれません。

 しかし、もしかすると、それはあなたが三類の強敵になっているからかも知れません。自分自身が本門佛立宗のご流儀を習い損じているからかもしれないのです。

 千年の都、京都の中心で生まれた世界的宗教は、本門佛立宗だけです。世界に知られた美しい街で、腐敗した寺院や僧侶を批判して、仏教を再興するために生きたのが、佛立開導・長松清風日扇聖人です。「清風の一類」という言葉の重みを噛みしめなければご生誕200年をお祝いすることも出来ません。

 今年こそ、「肌身離さず常に読み返しなさい」と書き遺(のこ)された御意(おこころ)をいただき、口だけ、言葉だけではなく、如説修行抄を実践しましょう。

 難しいことはありません。情熱を取り戻して、たぎらせて、真実を真実に、深く思い定めて、一年を過ごしてゆこうということです。

 まっすぐであればいいのです。

 格式や外見よりも中身。

 頭より心、言葉よりも行動。

 それが流儀です。

 一見、狂気的な情熱だけが突き破れる壁があります。見えてくる景色があります。「狂気的情熱」とは「狂喜的情熱」です。

 みんなで、燃えて、生きましょう。

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