2007年8月9日木曜日

人間こそがリソース(資源)である

 シンガポールは非常に小さな国。面積は東京23区とほぼ同じで、人口は約424万人とのこと。横浜市よりも少し多いくらいだろうか。神奈川県の半分ほどの人口である。そのシンガポールの42年目の独立記念日が今日であり、高層マンションの窓にはシンガポール国旗が踊っている。

 不思議なもので、独立記念日に他国を訪れるのは今年だけで2度目である。今年の2月4日にはスリランカの独立記念日にコロンボ市内でご奉公していた。旧国会議事堂からスリランカ軍の閲兵の練習などを見ていた。このシンガポールでも飛行機が市外上空を飛び、独立記念日を祝っている。

 今日、インターナショナル・ブッディスト・オーガナイゼイションの国際会議に参加したのだが、その内容は後でご報告することにする。非常に有意義な会合となり、福岡御導師のスピーチは多くの人に感銘を与えた。

 その会合の前後で、多くのシンガポールの若者たちと会話した。その内容を少しだけ紹介したい。全ての若者にとって、学ぶべき点があると思うからだ。

 シンガポールはマレー半島の先端に位置する小さな島。ヨーロッパ勢の東南アジア進出と植民地化は16世紀前半に始まったといわれている。貧しい漁村に過ぎなかったシンガポールだったが、東南アジアの中心に位置するため、イギリスのトーマス・スタンフォード・ラッフルズを先頭にしてこの小さな島をイギリスの植民地として開発した。以来、東西貿易の中心的存在として見事な発展を遂げた。日本も第二次世界大戦の折にはマレー半島上陸作戦を展開し、2ヶ月後にはシンガポールを占領。「昭南島」と改名したこともある。その後、またイギリスの軍政下におかれるが、反英武力闘争がマラヤで起こり、1965年ついにマレーシア連邦から脱退、独立したという経緯があった。

 他の東南アジア諸国とは異なり、どことなく東南アジアの鬱蒼とした熱帯の雰囲気を放っていない。古びた街並みはイギリスによる植民地時代を彷彿とさせるし、高層ビル群は先進国を思わせるのだから。

 その国に住む若者たちと話をする。驚くべきことに、小さな島国で資源の無いことを自らすぐに表明し、「だから、この国の資源は人間なのです」とはっきりと言う。「私たちは、石油もない、鉱石も出ない、食料も乏しい。だからこそ、この国の資源はヒューマン・リソースしかないということを知っているのです。ヒューマン・サービスが資源なのです」と。これはすごいことではないか。

 日本も同じ島国。資源も乏しいし、自国による食糧自給率も極めて少なくなってしまった。他国からの資源提供、貿易に依存していると言って良い。もちろん、日本人は「技術力」を一つのアイデンティティーとしているが、それを支えているのはシンガポールと同じように「人間」である。その人間の健全性、優秀なることを維持し、高めていけなければ、他国に依存している我が国は枯渇してしまう。

 今日、集まってくださっていたシンガポール人は、「教育」と同様、いや、それ以上に「心の豊かさ」に対して関心を持っている方々であり、若者である。世界の動向を見ていても、そこに「ブッダの教え」が必要であることを感じている。「人間のサービス」が資源だというのであるから、「心の豊かさ」をどのように維持し、高めるかについても関心があるのだ。

 日本でも「教育再生」が叫ばれている。それも大切だと思う。しかし、根っこの部分を見据える人が、日本に何人いるだろうか。「ブッダの教え」による「心の豊かさ」について関心のある人がどれだけいるだろうか。資源のない国が、その自覚もなく豊かさを長く享受しているだけであったなら、人間の質は落ちてゆき、「心の貧しい」、ギスギスした社会になるのではないか。器の小さな、サービスする心の無い、他人に対して無関心の、偏った競争心のみに終始する愚かな者が「日本人」となってしまったら、それこそ日本の将来に暗雲が垂れ込めてしまうのではないか。

 資源がないという自覚、では何が大切かという次のステップ。それを若者までが認識し、努力できる社会、国。

 大切なことがたくさんあり、学ぶことがたくさんある。国際貢献とて、私たちから持って行くものばかりではないのだ。私たちこそ、アジアの各国から学ぶべきことがたくさんあるのだ。

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