2013年5月19日日曜日

龍二

本堂の左側から内陣に上がり、彼は丁寧にお塔婆をお供えします。毎朝お参詣し、ご奉公を続けている彼の姿を見るたびに、何とも言えない喜びが胸に湧き起こります。

とし子さんや施設部の方々と一緒に境内の木々を剪定し、黒崎さんと一緒にツリーハウスの建設にも頑張ってくれている龍二くん。時に彼の存在は、自分の存在そのものを教え、確認させてくれるのです。

佛立魂。妙とは蘇生の義。先住の起死回生の現証の御利益。その直後の龍二との出会い。交通事故で意識不明の大重体に陥った龍二。意識不明のまま二ヶ月以上が経った頃、板倉さんに連れられてお母さんは初めて妙深寺に来られた。

河口湖のテツが事故に遭った時も同じだった。おやっさんから電話があり、日赤病院のICUまで駆けつけた。意識不明。たくさんの管が付いたままのテツ。ICUの中でお数珠を取り出して、おやっさんと一緒にテツを助けてくださいと、御題目をお唱えした。

いま、テツも元気だけど、龍二も本当に元気になり、彼を見るたびに、この20年近くの年月、ひと言では言い表せない龍二との様々な出来事、人生そのものを、思い出す。

日々、様々なご奉公がある。それは「行事」ではなく、何としても助けたい、支えたい人やご家族に出会い、お話をし、ご祈願をし、お助行させていただく。深い罪障や悪しき業が見える時、強いお折伏や指導をさせてもらうこともある。貪・瞋・痴と慢心、それらが病のように浮かび上がって、どうしても通らないこともある。

そんな時、御法門はもちろんだけれど、これまでいただいてきた現証の御利益、特に、目の前で見せていただいてきた妙不可思議さの実証、その人、そのご家族を思い返す。

龍二やそのご家族は、その大切な証明のような存在。

あの大事故の後、右の前頭葉を強打して、今でも頭蓋骨の陥没が見えるほどの龍二は、いろいろなことに悩んでいた。高校時代は活発な青年だったのだけど、思うようにならない身体を抱えてイライラすることもあったかもしれない。

龍二の実家は鰻屋さんをしていて、あの頃の僕はご奉公の行き帰りに駅前の鰻屋さんに立ち寄って、店先で立ち話をしたりしていた。帰り際、いつもカリカリした鰻の骨をいただいたのを覚えている。

大きなパチンコ屋さんに隣接したラーメン屋さんで働き始めた龍二。一生懸命に働き始めて喜んでいたのだけど、生活のサイクルがどうしてもうまく回らず、悪循環に入ってしまったこともあった。あの時、パチンコ屋さんまで行き、龍二の作ってくれたラーメンを食べた。顔を合わせて話をし、何とか良いサイクルに戻れたらと願って話をしていた。

龍二も苦しんでいたのだと思う。鰻屋さんの二階に住んでいる龍二を訪ねたこともあった。薄暗い部屋を思い出す。仕事場が変わり、忙しいといって何年かが過ぎた。忙しさで全くお寺に来れなくなっていた。そして、気がつくと、龍二の心はふさぎ込んで、闇の中に入ってしまった。仕事でも、生活でも、行き詰まってしまっていたようだった。

そして、みんなで再会した。もう一度、命を助けていただいたあの時のことを思い出して、ご信心を根っこに置いて、心も体も生活も、立て直して行こうじゃないかという決意を、お母さんも含めて、みんなで決めた。厳しいことも、たくさん伝えた。

教区の皆さんのお見守り、妙深寺のみんなの支えもあり、いま、彼は人生で最も豊かに、充実して、必要とされて、生きているのではないかと思う。何よりも、僕自身にとって、この20年間を見てきた彼の存在、まさに、御法さまに救われ、支えられ、導かれて、今があるとしか思えない彼の存在、そして、今や菩薩として、妙深寺のガーディアンの一人として、生きている彼を見るたびに、この生きた仏教、ご信心の尊さを再確認することが出来る。倒れそうになっても、彼を見るたびに立ち上がる勇気が湧いてくる。御利益をいただいてここまできた彼は、そんな尊い存在になっている。

彼も助かり、我も助かる。人を助けようと思って励んだら、知らず知らずのうちに自分が助かっていた、という、それが、法華経本門の教えです、と。まさに、そうだと思う。

少し前にも書いたけれど、時間という試練に耐えて、今でも現証の御利益を見せてくれている龍二や、その他にもたくさんおられるのだけど、そういう方々やご家族が、私たちの存在価値であると思う。

今を真剣に生きていると、いいことある。楽しみは、ずっと先にある。この瞬間の喜びよりも、深い味わいの喜びがある。

0 件のコメント:

佛立アンバサダー・コレイア御導師の来寺

昨日はコレイア御導師に妙深寺までお越しいただき、朝一番のお総講から目一杯のご奉公を頂戴いたしました。 御法門はブラジルHBSの躍動を感じる新本堂建立へ向けたお話、ご帰寂のわずか1週間前に撮影された感動のインタビュー、リオデジャネイロのご信者さまの壮絶な体験談など、千載一遇、またと...