私は、安彦志津枝の詩が好きだ。
安彦さんは、アルバ・ガッタ・ローマ芸術家協会名誉会員で、数多くの詩集を出されている。私は彼女の書いた小説が好きで、その中の一節が忘れられない。
それは、「雲」である。小説の中に登場する青年は、いつも雲を見ている。雲が好きなのだ。雲の動き、形、色、風、躍動感、清々しさ、寂しさ。
その青年と少女の物語。「記憶のなかの部屋」を読んで以来、私も彼らのように雲を見るのが好きになってしまった。
人間には詩人の心が必要だと思う。それは、草木や花々、空や山や雲、太陽や月や星からメッセージを受け取る人である。目に見える世界、自然科学が教えてくれる世界、要素還元主義の世界に生きながら、見えざる世界、人と人との機微、自然との調和、心の世界を感じ、見る人だと思う。行きすぎれば占星術や心が浮遊して憂鬱なものにもなってしまいそうだが、そうはいっても「詩人の心」「詩的な情緒」は持っていたい。
今朝は昨日とはうって変わって涼しかった。36.1度の真夏日を大分で記録し、全国でも数ヵ所が5月としては最高温度を記録したという。自然界の悲鳴が聞こえてきそうだが、地球は人間以外の全生命を動員して何とかバランスを取ろうとしてくれているのだろう。今日の清々しさは、きっとそうした地球の努力の結果だろうか。
安彦さんは苦労を重ねて、しかし明るく活動的な77才の女性。エネルギーが沸々と湧いてくる。妙深寺の中でもご奉公をコツコツと積み重ねてきて、ご信心の面でも衰えることを知らない。昨年もロス団参の途中でバーに居合わせた青年に声をかけ、お教化までされてしまった。頭が下がる。詩人として、全世界で活躍しておられるが、何ら気取ることもない。「ご信心がなかったら、あたしはあっちの世界にいってしまっています」と言われる。あっちの世界とはあっちの世界。精神世界の奥の奥のことだ。その話は別の機会にしよう。
いずれにしても、詩人の心は欠かせない。今朝、境内地から雲を見て、また清々しい気持ちになったので写真を撮ってみた。みなさんも都会で仕事をされているだろうが、昼休みなどは雲があったら雲を見てもらいたい。雲を見るということは上を見上げることだ。「上を向いて歩こう」ではないが、顔を上げること、空を見上げることは、清々しい気持ちになるために大切なことなのである。
そして、大地に、自然に、地球に感謝する。「有難い」「ありがとう」「南無妙法蓮華経」と、感謝の心が湧いてくる。そうして、厳しい競争社会の中で生きているのだけれども、バランスが取れると思う。
今朝も、憲史くんはお参詣を続けている。一日も休んでいない。有難いことだ。少し話をしたいのだが、憲史くんはお参りをして颯爽と帰って行く。いや、「颯爽」ではないかもしれない。母が後ろから見ていると、グラグラグラグラしているそうだ。眠いのだろう。先日は宗歌の時に立ったままガクッとなっていたという。ただ、彼は着実に心を練っていると信じたい。
雲を見上げてみてください。
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