夕方、一人でお助行に行かせていただいた。やはり、風邪を移してはいけないと思っていたが、お風呂に入ってウイルスを落とし、何度もうがいをさせていただいてご自宅まで伺った。
ご病気の方。大変なご病気の方。この数年間、お寺で親しくお話しできるようになった方。病気が発覚して以来、ずっと御祈願させていただいてきた。「住職の御法門が好きだ」と言ってくださっていた。ほんの数年間だったのだが、想いが詰まって言葉にならない。こんな若僧の住職を、先輩の、年齢もずっと上の男性から敬っていただいたり、信頼を寄せていただいていることが勿体なく、尊く、有難かった。
玄関に入り、お嬢様が出てきてくださった。家事の手を止めてはいけないのだが。申し訳なかった。申し訳ない時間だった。御宝前にご挨拶、小さな声で言上させていただき、リビングに据えられたベッドまで行かせていただいた。今朝は胸が痛かったと聞いていたが、スヤスヤと眠っておられた。
手を握らせていただいて、両手で痩せてしまった手を握る。額にその手を付けて、ただひたすら「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、、、」とお唱えさせていただく。「住職、住職」という元気だった頃の声、想いが胸に込み上げて、涙が溢れてくる。哀しいのとも違う。ご家族も頑張っておられるのに、私がこんなでは申し訳ない。しかし、短い期間の中で、この未熟な私と共にご信心してくださったことが、何とも有難く、尊く、そういう想いが込み上げてきて、ただひたすら「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、、、」と。情けない住職、情けない教務だろうか。
人は、老い、病に遭い、死を迎える。現証の御利益を目の当たりにしながら、しかし人間の定められた業に変わりはない。ただ、手を握りしめながら、「生きて、生きてください」と思う。
人間には短い命と長い命がある。私たちは短い命しか見えないから、この命の火が消えそうになるのを寂しく思い、哀しくも思う。その心は真実で、哀しいことに変わりはない。しかし、長い命を想えば、「また逢える」「また逢おう」「ありがとう」と暫しの別離の御題目、御題目の口唱となる。
奥さまが帰ってこられ、ご長男も、婚約者の方も、お孫さんも帰ってこられた。お会いできて良かった。ご家族には「頑張ってください」と力強くお声をお掛けした。もう十分頑張っておられるのにお寺でいつもお会いするお孫さんたち二人にも「ジイジを頼むぞ。頑張るんだぞ」と。
情けない。車まで送ってくださった奥さまのお顔を見ていたら、また涙が込み上げてきた。今生の、少しの御縁は、永遠のものとなる。永遠の時間の中の一瞬。その一瞬にお出会いできた私たち。しかし、暫しの別れが迫っている。言葉にならない想いを抱えて、保土ヶ谷バイパスを走って帰ってきた。
車の中で、この気持ちを正直にブログに書かせてもらおうと思った。だから書いた。ただ、それだけなのだが、今日のお助行は、そういうお助行だった。
2007年5月15日火曜日
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