1968年4月4日、午後6時、黄昏のこのモーテルのバルコニーで、キング牧師は凶弾に倒れた。今でもコロンバイン高校やバージニア大学での銃乱射無差別殺人事件が起こり、銃社会アメリカの暗部について報じられているが、9.11のテロと同じように恐ろしい政治的なテロ、暗殺などが立て続けに起こっていた1960年代。
彼の前日の演説。それは、あらゆる宗教の枠を超えて、宗教者がある高みに到達した時に発せられる言葉だと思う。
「前途に困難な日々が待ってます。でも、もうどうでもよいのです。私は山の頂上に登ってきたのだから。 私も長生きがしたい。長生きするのも悪くないが、今の私にはどうでもいい。神の意志を実現したいだけです。神は私が山に登るのを許され、私は頂上から約束の地を見たのです。私は皆さんと一緒に行けないかもしれないが、ひとつの民として私たちはきっと約束の地に到達するでしょう。今夜、私は幸せです。心配も恐れも何もない。神の再臨の栄光をこの目でみたのですから。」
もちろん、仏教徒として異論はある。「神の意志」あるいは「約束の地」「ひとつの民」など、キリスト教の教えが、そもそも選民思想を持ち、苦しむ原因、DNAを持っていたのではないか、と。そう言いたくなる箇所もある。しかし、ここで言うべきではないだろうと思った。彼は偉大な宗教家、活動家であったと思うし、人々のために大きな壁を、信仰を力に変えて実現に導いた人なのだから、と。
「神の再臨の栄光」が何だったのかは分からない。現実、彼に寄り添った者たちはキング牧師のこの夜の行動を細かく記録しているから、それに関連したことなのだろうか。しかし、それも俗っぽくてここで述べることでもない。
とにかく、このバルコニーを部屋の内側から眺めて、その場所に向かって御題目をお唱えさせていただいた。
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